名ばかりの総合取時代に

ドン底ゆえの大脱皮を

 業界の新年がスタートした。今年は総合取引所元年ということで、一日には東京証券取引所グループと大阪証券取引所が経営統合した「日本取引所グループ」(JPX)が船出した。上場企業の時価総額が世界第4位ということだが、順位の微妙さもさることながら、自公連立による安倍政権の誕生に伴う株高期待にもかかわらず、JPXそのものに対する社会的関心はむしろ冷やかというべきかもしれない。とはいえ、JPXそのものは将来的には原油をはじめとする大型国際商品の指数を軸とする先物商品上場の検討を視野に入れており、商取業界としてもその行方には無関心ではいられないところではある。

4半世紀前の規模に

 さて、肝心の我が業界であるが、結局、2012年の年間総出来高(オプション除く)は2729万1952枚と、前年比20・9%減少し、1986年以来実に26年ぶりの低水準にまで落ち込んでしまった。東京工業品取引所が前年比19・5%減となったことが全体の出来高を押し下げた結果、東京穀物商品取引所の大幅減(39・8%)、関西商品取引所の大幅増(12・1%)はともにニュース性を失うという格好になってしまった。周知のように、今年2月には東穀取の農産物、砂糖市場が東工取と関西取に移管され、東工取は農産物・砂糖市場を開設することで「東京商品取引所」に、また米穀市場を移管する関西取は「大阪堂島商品取引所」にそれぞれ改称されることになる。

 前述したJPXではないが、東穀取の市場移管とそれに伴う解散によって、皮肉にも東工取は商品版の総合取引所に衣替えし、関西取は先物取引発祥のシンボ・ネームである「堂島」を冠した農林水産省が単独所管する取引所となって、文字通り、極めて形式的な国内商取の再編が実現することになった。そもそも総合取引所構想なるものは、民主党の国家戦略の一環として、市場間競争力の拡大策のために省庁間の垣根を超えた監督・規制の一元化(金融庁への統合)を図ることで、金融と商品先物を一体として活性化させるものだったハズである。しかし、結果は、少なくとも現時点においては、金融庁、経産・農水両省の三省庁はいずれも既存の行政権限をほぼ従来のままに維持することで、自らの権益を守るという典型的な官僚主義の根深さだけが浮き彫りになっている。

自ら孤立は禁物

 安倍政権の先物政策がいかなるものとなるかについては不透明ではあるが、少なくともかつての自公政権下にあっては、政官業の既得権益のうえに全ての政策決定が行われたことを考えるなら、結局のところ、ドラスチックな政策転換はないと考えるのが自然ではないか。もちろん、世界経済全体が不安定な状態にあるなかで、商品市況は絶えず実需と思惑(投機)のハザマで揺れ動くことになる。とりわけ先進経済圏にあっては、リスクヘッジと資産運用をいかに共存させ、機能させるかが企業とっても個人にとっても、さらには産業政策の観点からも一段と重要なテーマとなっている。そうした時代にあって、ことさらに先物市場を特別視(無視)したり、存在そのものを敵視したりしているようでは、日本じたいが世界の市場ビジネスにおいて孤児のごときものとなるのは必至である。すでにそのような状況にあるとさえいえるなかで、いまがドン底であるならむしろ新しいスタートを切るためには絶好のチャンスと捉えるべきかもしれない。

 前述した年間出来高でいうなら、ピークの五分の一を大きく下回り、四半世紀以前の段階にまで後退したのだとしたら、もはや生まれ変わりの時期に到達したのだという認識のもと、いまこそ、商品先物取引の本来的なありようを、業界単独ではなく、また、かつてのような無差別勧誘によって社会と敵対するしかないような手法、ポジションに基づく強引な大衆化ではなく、社会そのものが自ら取引に参加するモチベーションを形成するために何をなすべきかを全力を挙げて見い出して行かなければなるまい。さもなければ、日本のマーケットが事実上、世界の孤児と化しているのと同様に、業界そのものが日本社会と孤絶したまま永遠に孤立するという悪夢すらあり得ないではない。

未来に賭ける

 幸い、我が業界には「金」という強力な武器がある。商取行政の失敗によって、数多の有力商品が上場廃止の憂き目に会ってしまった。いま思えば、それらの商品を上場するためにいかに大きな努力が必要だったことか。上場廃止はそのために積み重ねられた関係者の尽力を無にするとともに、ふたたび上場することの至難を前に、失ったものの大きさに暗然とせぎるを得ない。しかし、その無念と無惨のなかから立ち上がるとしたら、それこそ真のFutures Tradeというべきではなかろうか。過去を振り返り、失敗に学ぶことは不可欠ではあるが、そのための時間はすでに十二分に費やされたように思われる。行政は産構審などという手前味噌の舞台を通して巧妙に社会的圧力を演出しているが、そうした茶番と社会に内在する其のニーズの峻別こそが業界に課せられた使命ではなかろうか。

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