いま足下にある危機

急減する総取組高の意味

 さて、足元の国内商品先物市場では、4月12日以降のニューヨーク金相場(期近)の突然の急落による東京商品取引所金先物の大商いを受けて、全体の出来高が急増。月間ペースでは2月以来の300万枚超えが必至となっている。また、大阪堂島商品取引所のコメ先物で、標準品である北陸産(新潟県産コシヒカリなど)に対する割増金を2012年産から、ゼロにしたことを受け大阪コメの出来高が増加。これにツレる格好で東京コメが急増するという相乗効果でコメ先物は出来高、取組高ともに急速に膨らんできた。一般投資家の本格参加は遅れてぃるが、一方で、卸など当業者主導の市場構成の様相を強めており、試験上場期間が終了する8月を前に、試験上場期間の延長、本上場移行ともに期待を持てる展開といえよう。

 

32万枚を割る

 とはいえ、国内市場・業界ともにいぜんとして先行きを楽観できる状況にないのは厳然たる事実である。とりわけ現下の懸念材料となるのが総取組高の急減である。総取組局は未決済建玉(残玉)の総数であるから、売り買いともに、その時点での商品先物全体に対する投機人気の最も端的なバロメーターであるのは周知のところ。国内商品先物の総取組高は2004年以降の出来高減少、流動性低下という市場縮小の流れを受けて減退を余儀なくされてきたが、それでも11年8月からはほぼ2年近くにわたって月末時点で、多少の上下動はあっても40万枚前後という水準はキープしてきた。ところが、4月に入るとニューヨーク金の軟化に伴って金先物を手仕舞いする動きが活発。東京金(標準取引)の取組高は3月末現在で14万3098枚たったものが、4月8日には一気に12万枚を割り込むまでに急減。その後は11万枚をハサんだところで推移している。

 

 これを受ける格好で、総取組高も3月末の39万枚台から、ここへきて32万枚を下回る展開となっている。所詮は金次第という国内市場とはいえ、前述したコメ先物の取組増大も吹き飛ぶほどの投機離散が進行している以上、こうした事態をただ指を街えて見ているだけというのは、いくら何でもいかがなのものかというべきではある。無策にもほどがあるとはいえ、これまでも結局は、行政も取引所も、そして業界全体としても、その場しのぎの風まかせの市場対策(政策)に終始してきたツケが現在にまで至っていると諦観するしかないのであろうか。ここへきての円安進行、国際金価格の乱高下のなか、地金商の店頭では金を売買する個人客が殺到しているという。まさに、日本では巨大な個人金融資産がその運用先を求めて迷走しているのである。

 

投機離散の真相

 こうした事情は、その規模において商品先物とは比較すべくもない証券でも同様である。アペノミクスと日銀による異次元(と当事者白身が言うのはお笑いだが)の金融緩和によって株価が急回復している証券市場にあっても、それを主導しているのは外国人投資家であって、国内の個人投資家はいぜんとして様子見に終始している。これを踏まえて、日本取引所グループを筆頭に、証券界では個人投資家の市場回帰を最優先課題として取り組む方針を打ち出している。証券ですらそうなら、商品先物こそ個人(一般)投資家の市場参加と厚味のある流動性を確保しなければ、可能な限り多様で広範な資金の流人によって公正な価格を形成し、ヘッジや資産運用に相応しい市場機能を発揮するという最大の役割を果すことはできないということになる。

 

 もちろん、地道なセミナーや講演会、様々な情報提供、市場や取引所、取引業者の機能や役割、存在理由(価値)に関する情報発信など、総体としてのPR(広報)、啓蒙活動が必要なのは当然である。また、そうした取り組みは過去もそして現在も繰り返し行われてきたし、今後とも行われようとしている。しかし、それがどれほどの効果や有用性があったのかは不明であり、市場と業界の現状を考えれば、相当の部分(否、ほとんど)がコストと時間の浪費だった可能性が高い。結局は大手の広告代理店やメディアの懐を潤わせただけに終った感は否めない。結局、本当の意昧での社会的浸透が果せなかったことが、現在の総取組高の数値に凝縮されているといったら過言だろうか。

 

社会浸透が急務

 円安や日銀の超金融緩和がインフレ目標によって日本経済を成長路線に導こうというものなら、製造産業をはじめとする産業界への波及効果はもちろん、本来なら商品先物こそがその主役となっても何ら不自然ではないハズである。ところが、たとえば円安や資金供給量の急拡大(過剰流動性)のハケ口は、FX(外為証拠金取引)や高級品、首都圏のマンション、地金商(の店頭)に向っているようである。つまり、社会の関心(視線)のなかに商品先物はいぜんとして一般的なシェアを持ち得ていないわけだ。金を軸に業界の常識を超えた経営努力を続ける企業がある一方で、自らがビジネスの実態を創造する意思も意欲もないまま、現状対応に終始するという業界風土が取組高が象徴する沈滞を招いてはいないか・…

 

 

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