先物活用の理解運動を

市場の必要性は拡大の一途

 

 それにしても、こんな市場がかつて業界人が夢見た日本の商品先物マーケットであっただろうか。たんに、出来高や預り証拠金、委託者数などの市場規模(ボリュウム)の大小ではなく、ヘゴンであれ資産運用であれ、日本そのものの経済力に見合った機能と役割と産業インフラとしての地位(ステイタス)の点においても、国内商品先物市場は不当に低い評価と扱いを強いられているのは明らかである。もちろん、そうした立場に至った原因、プロセスには様々な理由があり、何よりも業界自身のビヘイビア(ありよう)に起因する部分が極めて大きいことは事実であるが、結局は産業界(一般企業)が商品先物を利用(活用)する必要性、切実性を認めなかったことが最大の要因ということに尽きるのではないか。

 

欠けているのは何か

 このことが、最終的に国内の商品取引所から当業者としての大手企業の不在を招いたうえに、戦後の取引所再開に当たってコメが上場商品の対象から除外されたことで、最大の国産商品が先物商品となり得なかったため、コメ生産農家という絶好の当業者の市場参加が阻まれた。これが、商品先物が戦後日本において社会化、大衆化の道を閉ざすとともに、繊維や生糸という衰退産業のみが当業者として残される一方で、小豆や輸入大豆といったコメの”代用品”が当業者不在を埋める一般委託者(個人投資家)への過度の依存構造を生み出すことで、商品先物市場の本来的な意昧での広範で多様な参加者が社会的に担保されるという契機を失ってしまった。

 

 この歪な構造は結局、金(を筆頭とする貴金属)や石油製品、原油、さらにはアルミニウムやニッケルといった非鉄金属、農産物でいえばトウモロコシやコーヒー生豆、挙句には野菜といった数々の新規上場が重なっても、市場の真の社会化(社会の共有財産としてのマーケット)を構築には至らなかった。それは遅過ぎたコメ上場とその後の経過に如実に示されている。もちろん、コメ試験上場の行方はいまだ未知数ではあるが、本上場へと至る道スジの不透明感が否めないのは国内の商品先物市場のありようの紛れもない証左である。かつての行政による不拡大方針の下で完全に膠着状態となり、新規上場さえままならなかった時代とは異なり、いまは試験上場制度(これ自体、最初から本上場の道を阻む欺隔的制度だが)によって、新規上場は比較的容易になった。

 

既存商品の最大化を

 しかし、新規上場がそのまま市場拡大や業界の発展に繋らないことはすでに明らかである。しかも、いまやほとんど金にしか、然るべき流動性を形成できないというドン詰まりの状態に陥っているのが現状である。これでは個々の商品の価格形成はもちろん、へッジや資産運用の有効な手段として国内市場を利用しようというニーズが高まらないのは当然である。ましてや、FX(外為証拠金取引)や株価指数、その他の商品指数を利用した先物類似の多様な証拠金取引が登場。証券市場でのETF上場投資信託)なども加えて、資産運用手段が拡大している現状を考慮すれば、商品先物を投資対象とするモチベーションは相対的には低下を余儀なくされるという側面は否めないのが事実である。

 

 こうした投資環境のなかで、商品先物取引法によって不招請勧誘の禁止が法制化されたことが決定打となって、商品先物の営業(受託業務)は不当にハードルを上げられてしまった。いわゆる損失限定取引か不招請勧誘禁止の対象外とされたことで、マーケットに必要不可欠な流動性の低下に拍車をかける一方、外務員の能力低下と投資家の自己責任原則の形骸化が急速に進んでいる。これが、金への集中と総取組高の減退を招いているといったら過言だろうか。多少の上下動はあるとはいえ、国内商品の取組は今年4月末以降、すでに4ヶ月にわたって30万枚をかろうじて維持する水準で推移している。これでは、海外のフロップにせよ機関投資家にせよ、あるいは個人投資家であったとしても、思い切った大目のポジションを取ることは不可能である。国内市場はまさに、自分で自分の首を絞め、そのことで市場規模を縮めるという悪循環に陥っている。

 

投資家本位を原点に

 コメの上場と不招請勧誘の禁止が政策的にセッ卜となっているかは不明だが、いずれにしてもこれだけガンジカラメにして商品先物から一般投資家を排除しようとしても、そこにニーズがある限り、市場が消滅することはあり得ない。それは金をみれば明らかである。また、エネルギーや食糧問題を考えるまでもなく、これからの世界経済にとって商品先物の市場とシステムが不可欠であり、それを利用・活用することが国家レベルでも企業、個人レベルでも不可避であることが明白である以上、日本の市場と業界だけが世界の中で埋没するとしたら、それは余程の”悪政”か業界の自滅がない限り不可能である。金という格好の入門ツールを持つことを正しく自覚し、徹底的な投資家本位に基づいて社会全体に先物活用への理解を定着させるために全力を尽くすべきである。

 

 

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