金、実質的にHQLA基準満たす=WGC

 ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)は5月29日、金が高品質流動性資産(HQLA)の特性を実質的に満たしているとするレポートを公表した。過去6カ月間の分析で、金のボラティリティやビッド・アスク・スプレッド、取引量が米国債と同等かそれを上回る水準を示したと指摘。バーゼルIII規制下で金がHQLAに分類されていない現状の見直しを提言した。

 レポートによると、2024年11月から25年4月までの金の日平均ボラティリティは0.027%となり、10年物米国債の0.016%をやや上回ったものの、30年物米国債の0.028%とほぼ同水準だった。トランプ政権の関税政策による市場混乱期3回においても、金は米国債と同程度かそれ以上の価格安定性を維持した。

 流動性の指標となるビッド・アスク・スプレッドは、金が平均2.2ベーシスポイント(bp)と、10年債の1.8bpをわずかに上回ったが、30年債の3.3bpを下回った。市場ストレス期には金のスプレッドが縮小する場面もあり、質への逃避が発生した際の典型的な動きを示した。

 取引量では、金のLBMA店頭取引が日平均1450億ドルに達し、同期間の10年債の1430億ドルに匹敵。世界で最も流動性の高い政府債券市場と肩を並べる規模となった。一方、30年債の取引量は720億ドルにとどまり、金が長期債を大幅に上回った。

 WGCは金と主要株式との比較も実施。エヌビディアとテスラの日中ボラティリティがそれぞれ0.11%、0.14%と金の0.03%を大幅に上回ったと指摘。プロクター・アンド・ギャンブルのような低ボラティリティ株でも金を上回る変動率を示したとした。

 現行のバーゼルIII規制では、金は流動性カバレッジ比率やネット安定資金調達比率の算定で85%の高い必要安定資金調達係数が適用され、現金同等物というより商品として扱われている。WGCは「金は信用リスクがなく、国境を越えて受け入れられる唯一無二の資産」として、レベル1HQLA分類に適格だと主張した。

 今回の分析は、金融政策の不確実性が高まる中で実施された点が注目される。トランプ政権の貿易政策を巡る混乱で株価が急落し、米国債の「安全資産」としての地位が揺らぐ局面もあった。このような環境下で金が安定性を発揮したことは、従来の金融資産の序列に変化をもたらす可能性がある。

 ただし、HQLAの見直しには規制当局の慎重な検討が必要となる。バーゼル委員会は各国の金融システムの安定性を重視しており、金の価格変動リスクや中央銀行の金融政策との関係性など、多角的な評価が求められる。金融機関の流動性管理において金の位置づけが変われば、資産配分戦略にも大きな影響を与えることになる。

タイトルとURLをコピーしました