ワールド・プラチナム・インベストメント・カウンシル(WPIC)は5月30日、中国のプラチナジュエリー製造需要について、2025年の成長率予測を当初の前年比5%増から15%増の474キロオンス(約14.7トン)へ大幅上方修正したと発表した。金価格の高騰により消費者がプラチナに回帰し、深センの卸売拠点では新規ショールームの開設が相次いでいる。約10年間低迷を続けた中国のプラチナジュエリー市場が急速な回復基調を示している。
中国のプラチナジュエリー市場は2013年をピークに長期低迷が続き、2023年まで需要減少が継続していた。転機となったのは金価格の異例な上昇だ。2025年第1四半期の金価格は前年同期平均を約15%上回る水準で推移し、同期間の中国国内金ジュエリー需要は前年同期比32%減と大幅に落ち込んだ。
高価格により消費者の金製品離れが進む中、金ジュエリー事業者は在庫保有コストの負担軽減と利益率改善を狙い、プラチナジュエリーへの業態転換を加速させている。中国の卸売プラチナ市場の約90%を占める深セン水北地区では、2025年に入りプラチナ専門ショールームが10店舗開設。従来のプラチナ指向店舗数を実質3倍に押し上げる規模だ。
各ショールームは100キログラムから500キログラムのプラチナジュエリー在庫を保有するとされ、市場全体の在庫水準が大幅に拡大している。需要急拡大により製造業者の供給能力不足も顕在化しており、大手の鼎源は4月下旬、注文量が製造能力を超過したため新規受注を一時停止した。
中国のプラチナ輸入量は4月に371キロオンスと12カ月ぶり高水準を記録し、上海金取引所での取引量も第1四半期を通じて価格が堅調に推移する中で着実に増加した。プラチナ・ギルド・インターナショナル(PGI)の中国パートナー企業の売上高は第1四半期に前年同期比50%増となり、市場全体の成長率26%を大きく上回った。
世界的にはホワイトゴールドからプラチナへの素材転換が進んでおり、第1四半期の中国を除く世界のプラチナジュエリー製造は前年同期比9%増を記録した。金価格上昇により14カラットや18カラットのホワイトゴールド製品価格がプラチナ950の卸売価格を上回る状況が生まれ、製造業者の転換を促している。PGIは米国と欧州を中心に長期的に0.7~1.5百万オンスの需要増加機会があると試算する。
WPICは投資資産としてのプラチナの魅力も強調している。2023年から連続する供給不足により地上在庫の枯渇が2029年に予想されるほか、リース料高騰やロンドン市場でのバックワーデーション発生が需給逼迫を示している。水素経済における重要性も相まって、歴史的に割安な価格水準にあるプラチナへの注目度は今後さらに高まる見通しだ。WPICは卸売需要が消費者の実需に支えられて持続すれば、2025年の世界ジュエリー需要予測2.1百万オンスを上回る可能性があるとの見方を示している。
今回の中国市場変調は、単なる需要回復を超えた構造転換の様相を呈している。10年間縮小を続けた市場が金価格高騰という外的要因により急速に復活するのは異例で、水北地区でのショールーム急増は業界全体の戦略転換を象徴している。しかし、鼎源の受注停止が示すように、プラチナジュエリー製造は金製品より高度な技術を要するため、短期的な増産には限界がある。この供給制約が価格上昇圧力となり、持続的な市場拡大の鍵を握る。
投資対象としてのプラチナは、ジュエリー需要回復と水素経済での役割拡大により、金との歴史的価格差が修正される局面にある。ただし、市場規模の違いによる流動性リスクには十分な注意が必要だ。中国発のプラチナ需要回復が世界の需給バランスと価格形成にどのような影響を与えるか、注視が求められる。