ワールド・プラチナム・インベストメント・カウンシル(WPIC)が19日公表した長期需給見通しは、電気自動車(EV)化というメガトレンドが白金族元素(PGM)の需給構造を根底から変えつつあることを浮き彫りにした。プラチナは2029年まで構造的な供給不足が続く一方、パラジウムは26年に供給過剰へ転換。同じPGM内で需給の明暗が分かれる構造転換が鮮明だ。
WPICのリポートによると、プラチナ市場は23年以降の赤字基調が定着する。25年から29年にかけての供給不足は年平均で72万7千トロイオンスに達する見通し。この累積赤字は地上在庫の取り崩しを加速させ、29年中に在庫が枯渇する可能性を指摘した。これは単なる需給逼迫に留まらず、有事の際の供給安定性に対する深刻な警鐘と言える。
需要構造の変化が赤字の背景にある。主力の自動車向けはEVへの移行で緩やかに減少するものの、金価格の高騰が宝飾品分野で割安なプラチナへの代替需要を喚起。水素関連など新規の産業需要も期待される。一方で供給は、南アの鉱山生産が底堅く推移するものの、リサイクル供給がコロナ禍以前の水準に戻らず、全体の伸びを抑制する。
対照的に、パラジウム市場は供給過剰への道筋が明確になった。25年までは小幅な不足が続くが、26年には過剰に転じる。需要の8割超を依存するガソリン車向け触媒がEV化で減少することが最大の要因だ。自動車市場の構造変化の影響を、プラチナより直接的かつ深刻に受ける構図となっている。
今回の予測が示す本質は、脱炭素社会への移行期における「素材間競争の縮図」だ。ガソリン車触媒の主役だったパラジウムの役割が低下する一方、プラチナは宝飾品での需要回復に加え、燃料電池車(FCV)や水素製造装置といった次世代エネルギー分野での新たな役割が期待される。PGM市場は、どの金属が未来の産業構造に適応できるかを問われる新たなステージに入ったことを示唆している。
この構造転換は、自動車メーカーや素材関連企業、そして投資家に長期的な資源戦略の再構築を迫るものだ。WPICは、継続的な供給不足と在庫減少がプラチナ価格の強力な支援材料になると分析する。短期的な価格動向だけでなく、PGM市場で起きている地殻変動を見据えた視点が不可欠となる。