大阪取引所は30日、金と白金の限日現金決済先物で市場価格と理論価格の乖離が続く問題を受け、現行商品を刷新すると発表した。2026年4月に取引最終日を設けた新商品を投入し、裁定取引を促して価格形成の正常化を目指す。現行商品は26年12月に休止する。
今回の刷新は、市場機能の不全に対する取引所の強い危機感の表れだ。金・白金の限日先物では近年、市場価格が理論的な現物価格を大幅に上回る異常な状態が慢性化。取引所は複数回にわたり注意喚起したが改善せず、流動性の低下や価格変動の増幅を招いた。呼値の制限値幅の上限に達し取引が成立しない事態も散見され、投資家保護の観点から抜本的な手術が不可避と判断した。
価格乖離の根本原因は、現行商品の「取引最終日がない」という特異な商品設計にあったと分析できる。日々自動で取引が継続されるロールオーバー型は、決済期限を気にせず長期保有できる手軽さから個人投資家の人気を集めた。しかし、その一方で、価格の歪みを是正するはずの裁定取引が機能しにくいという構造的欠陥を内包。プロの機関投資家などが、理論価格から乖離した割高な先物を売り、割安な現物(または標準先物)を買うといった行動をとるインセンティブが働きにくく、市場の自浄作用が失われた状態だった。
新商品は、この欠陥を是正する。最大の変更点は、約1年2カ月の取引最終日を設ける「限月制」への移行だ。これにより、最終的には現物価格に収斂することが制度的に担保される。さらに取引対象を、市場で最も流動性の高い「金標準先物」「白金標準先物」の価格に設定。2つの市場間での裁定取引を容易にし、価格連動性を高める狙いだ。
今回の決断は、短期的な取引高の減少リスクを負ってでも、市場の健全性と信頼性の回復を優先した英断と言える。デリバティブ市場の根幹である価格発見機能を取り戻すための、避けては通れない道であった。今後の焦点は、新商品が市場に定着し、十分な流動性を確保できるかに移る。取引所が導入するマーケットメイカー制度が、その成否を占う鍵となりそうだ。投資家にとっても、取引最終日を意識したポジション管理が求められるなど、取引戦略の見直しが必要になる。
大阪取引所は今回の制度要綱案について30日からパブリック・コメント(意見公募)の受け付けを開始した。市場参加者などから広く意見を募り、最終的な制度設計に反映させる方針だ。
現行の限日現金決済先物取引は、2026年12月22日を最終取引日として休止する。最終日時点で残った未決済建玉は、新商品には引き継がれず、翌23日に算出される最終清算数値で自動的に決済される。取引所は投資家に対し、計画的な建玉の整理を強く促している。