ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)は、代替資産市場の拡大を背景に、金を「ショック吸収材」とする役割の重要性についてまとめた最新レポートを公表した。高い流動性と低い相関、危機時の即応性が、他の代替資産にはない特長として強調されている。
世界の機関投資家は昨今、リターン強化や分散を狙い、プライベートエクイティやプライベートクレジットなど非上場資産への投資を増やしている。しかし、こうした資産は評価の遅れや現金化の困難さがつきまとう。実際、新規株式公開やM&Aの減速が出口戦略に影響し、市場ストレス時の流動性確保が課題となりつつある。
同レポートでは、過去20年超のデータを用いたシミュレーションおよびストレステストを通じて、ポートフォリオの5〜8%を金で構成すれば、ボラティリティや最大ドローダウンが顕著に低下することが示された。歴史的な金融危機やインフレ上昇、株価暴落シナリオでも、金の組み入れにより損失圧縮効果が明白となった。
特徴的なのは、伝統分散先がショック時に同時安となる場面で、金が分散投資の「空白」を補い、現金化需要に即応できる点である。分散という名目でリスクが実は密接に連動しやすい現代市場では、金の役割は従来以上に重みを増している。
プライベートクレジットなど非伝統型資産への投資は今後も拡大が予想される。しかし、こうした領域では透明性や流動性リスクの水面下累積が不可避となる。金の静かな強さと即時性は、アロケーション全体の規律・安定性を支える核心となるだろう。近年の市況はリスク伝搬と流動性干上がりの速さも顕著であり、公募的な換金性と私募的な耐久性を併せ持つ金が、「現代ポートフォリオの橋」として不可欠な存在になりつつあるのは間違いない。