自前で大構想を描け
嘗めたらアカンゼヨ――というのが中堅以上の業界人の”心の叫び″なのではないか。叫びといっても、怒髪天を衝くといった如き激しさではなく、嘆息のような、内部に澱が溜まって沈んで行く類の怒りではあるが・・・。しかし、もはやここまでくれば”犯罪”なのではないか。たとえば、台風被害などで、自治体の避難指示が遅れたり、指示自体がなくて甚大な住民の犠牲が生じた場合や、食品偽装などにより死者が発生したりすれば、行政は”不作為の過失”を問われることになる。それと全く同様とはいえなくとも、ここまで国内商品先物のマーケットが衰退し、今日現時点でも市場全体が崖を転落するが如くに崩壊の様相を呈しているにもかかわらず、商取行政が完全に沈黙しているのは何故なのか。
規制の完成形に
確かに、商品先物取引法の完全施行によって、委託者保護、自己責任原則の否定、専業取引員の排除という2004年の商品取引所改正以降の過剰規制は、再勧誘禁止から不招請勧誘禁止という法言語的にみても余りにグロテスクな造語まで動員することで、ひとつの完成形をみた。そして、商先法制定において行政が提起した、「利便性があり、トラブルのない、使い勝手の良い」市場は、取引員と一般委託者(個人投資家)の排除という法に基づく焦土作戦の成功によって、見るも無惨な焼け野原となった。それでも、委託者トラブルが激減し、取引員は商品先物取引業者に移行することで抽象化。業に対するアイデンティティを奪われるとともに、旧専業系は20社余りと、かつての十分の一の業界規模にまで縮小してしまった。
全国紙・日経新聞は10月23日付商品欄で、同22日の東京商品取引所(江崎格社長)出来高(同紙はいまだに「売買高」と表記)が5万785枚と一年二ヵ月ぶりの低水準だったと報じた。金の急減などが要因となったが、農産物・砂糖市場を除いた旧トコムとしては4万8300枚と、同じく12年8月7日以来の5万枚割れだったのである。一営業日の瞬間風速を論じてみても無意味ではあるが、それでも東商取の一日平均出来高(10月24日現在)は7万9567枚と8万枚を下回っている。昨年8月(7万7627枚)は上回ってぃるが、国内最大かつ中核を成す商品取引所の出来高水準が現状で良いハズはあるまい。取引所はもちろん、主務省(経産・農水両省)が無為無策で現行の市場崩壊にも等しい事態を放置するなら、それは冒頭で触れた行政の不作為という過失と同義であるといっても過言ではあるまい。
現状は失政の結末
東商取の江崎社長は先月下旬、CME(シカゴーマーカンタイル取引所)グループとの業務提携に関する協議のために訪米した。原油の相互上場などがテーマとされてぃるが、公式・非公式を問わず、東商取の最大の懸案となっている売買システムの更新問題にっいての意見交換があると考えるのが自然ではあろう。システム更新については、現行システム、JPX(日本取引所グループ)との共同利用などが検討されているが、「年内までに結論」(江崎社長)という方針以外には正式に決定されたものはない。とはいえ、システム問題は東商取の今後の経営体制のありようを左右するものになるだけに、早急な方針決定は不可避である。
ところで、東商取は10月21日、9月の売買高全体に占める海外からの委託売買高が42・6%と過去最高となったと発表した。8月も41・2%を占めており、二ヵ月連続で過去最高を更新したことになる。これもまた、かつて経産省などが再勧誘禁止による流動性低下を懸念する声に対して、一般委託者依存を脱け出し、プロップハウスや海外投資家の参加拡大を図ることで国内市場もプロ化・大型化する――とした論法が実現したということになるのだろうか。現実には、東商取の出来高全体が急減し、相対的に海外委託玉の比率が上がっているに過ぎないし、”青い目”の外国人投資家の存在を考慮すれば、過去最高の更新を額面通りに受け取る業界人など皆無であろう。
自らが動く時
いずれにしても、マーケットのありように対して何らの対策もしないというのは、商品先物そのものが不要ではないとすればもはや犯罪的ですらあるというのはすでに述べた通りである。確か、昨年夏頃には三省庁(金融庁、経産・農水両省)による商品先物取引活性化協議会なるものの立ち上げが取り沙汰されたハズだったが、こうした取り組みはその後どうなったのだろうか。産業構造審議会を含め、こうした官製の商品先物市場を巡る論議は結局のところ、規制強化以外で機能したことはなかった。いまや分科会から小委員会に降格された産構審の行方に大きな期待が持ち得ないのだとしたら、業界自身が日本社会にふさわしい商品先物市場のあり方について自らが構想し、自らの手であるべき将来ビジョンを構築し、社会全体に提示すべきであろう。それをテコに、商取行政そのものを動かすという気概こそがいま必要とされているのではないか。