プラチナ市場、25年も供給不足継続=WPIC、南アの生産低迷で構造不均衡に

 ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシル(WPIC)が19日に公表した最新の市場分析は、プラチナ市場が2025年も深刻な供給不足に見舞われると警鐘を鳴らす。不足量は96.6万オンス(約30トン)に達し、3年連続の赤字構造だ。これは年間需要の実に12%に相当する規模であり、単なる需給の揺らぎを超えた構造的な問題を映し出している。金価格の華々しい高騰の陰で、プラチナが発する静かな、しかし重要なシグナルを見過ごしてはならない。

 供給サイドの現実は厳しい。世界の鉱山生産量は前年比6%減の542.6万オンスにとどまる見通しで、特に世界の供給の約7割を占める南アフリカの不振が際立つ。同国では、第1四半期に豪雨による洪水被害で生産量が前年同期比13%も落ち込んだ。だが、天候不順は一過性の問題に過ぎない。より根深いのは、電力危機、老朽化した鉱山設備への投資不足、そしてPGM(白金族金属)価格低迷を受けた約7500人規模の人員削減といった構造的な供給制約だ。これらは、一朝一夕には解決し得ない課題であり、プラチナ供給の持続可能性そのものに疑問符を投げかける。

 リサイクル供給が3%増の157.3万オンスと微増するものの、鉱山生産の落ち込みをカバーするには程遠い。結果として総供給量は4%減少し、市場の不均衡をさらに深める。この供給構造の脆弱性は、地政学リスクの高まりと相まって、プラチナ市場の大きなアキレス腱と言えるだろう。

 一方、需要サイドの景色は複雑だ。自動車向け需要は2%減の305.2万オンスと見込まれる。電気自動車(EV)へのシフトという逆風はあるものの、内燃機関(ICE)搭載車の需要は依然として根強く、特に排出ガス規制強化に伴う触媒需要が下支えしている。また、高価なパラジウムからプラチナへの代替という追い風も無視できない。この代替需要は、技術革新とコスト意識の高まりを背景に、今後も一定の規模で継続する可能性が高い。

 工業用需要は、中国のガラス製造向け設備投資が一巡した影響で15%減の211.1万オンスと大きく落ち込む。しかし、宝飾品需要は5%増の211.4万オンスと堅調だ。特に注目すべきは中国市場の動向である。金価格の歴史的な高騰を背景に、より手頃なプラチナ宝飾品へのシフトが鮮明で、同国の需要は15%増(47.4万オンス)と予測が上方修正された。さらに、TikTokでプラチナバーの販売が始まるなど、個人投資家の裾野も広がっており、同国のプラチナ小売投資は48%増と急拡大している。これは、単なる代替需要を超え、新たな消費者層の出現と資産選択の多様化を示唆しているのかもしれない。

 市場の逼迫感は、リースレート(貸出金利)の急騰にも表れている。第1四半期には一時13%まで跳ね上がり、前年第4四半期の約1%から様変わりした。これは現物の入手困難さを示す重要な指標であり、市場参加者の危機感を如実に物語る。米国の関税政策を巡る不確実性も市場を揺さぶった。当初の広範な関税適用への懸念からNYMEX取引所在庫は一時急増したが、4月2日の詳細発表でプラチナ地金の多くが「戦略的重要鉱物」として対象外とされた。この決定は、プラチナが半導体製造や自動車触媒など、国家の基幹産業に不可欠な資源であることを改めて印象づけるものとなった。

 WPICは、プラチナの地上在庫が2025年末までに需要の約3カ月分に相当する216万オンスまで減少すると予測する。これは、市場が極めてタイトな状況にあることを意味し、持続可能性の観点からも問題が大きい。供給の大部分を特定の地域に依存する現状と、構造的な供給制約を考慮すれば、中長期的には価格上昇を通じた需給調整が避けられないだろう。

 金に比べて著しく割安なプラチナは、投資対象としての魅力も増している。しかし、それは単に価格差だけではない。プラチナ市場の構造的不均衡は、資源安全保障、産業競争力、そして新たな投資潮流といった、より大きなテーマを我々に突きつけている。この「白金の声なき警鐘」に耳を澄まし、多角的な視点から市場の深層を読むことが、今まさに求められている。

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