関税政策でスタグフレ懸念、5月金価格は小幅安=WGC

 ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)は5日、5月の金市場分析を公表した。米トランプ政権の関税政策がスタグフレーション懸念を高める中、金価格は月間で小幅下落したものの、年初来では26%の大幅上昇を維持している。1970年代の石油危機以来となるスタグフレーション環境の再来が現実味を帯びつつある。

 5月の金価格は1オンス当たり3278ドルで終了し、前月比0.7%安となった。月間ベースでは小幅な下落だが、年初来では依然として26%の大幅上昇を記録。この上昇率は過去10年間で最高水準であり、金が改めて「究極の安全資産」としての地位を確立したことを示している。

 今回の価格動向で注目すべきは、金が政策リスクに対する「早期警戒システム」として機能している点だ。WGCの分析によると、関税政策リスクとインフレ期待の上昇が金価格を下支えした一方、ETF(上場投資信託)からの資金流出と4月の大幅上昇の反動が下押し要因となった。特に関税がもたらすスタグフレーション(景気停滞とインフレの同時進行)への懸念が市場の根底に流れている。

 世界の物理的金保有ETFからは5月に18億ドルの資金が流出し、5カ月連続の流入が途絶えた。この動きは投資家心理の微妙な変化を映している。地域別では北米が15億ドルの最大流出となり、米中貿易摩擦の一時緩和で安全資産需要が後退した。アジアも4月の好調から一転して4億8900万ドルの流出に転じたが、これは利益確定売りの側面が強い。対照的に、欧州は2億2500万ドルの軽微な流入を維持。フランスでの政治不安定や財政懸念が金需要を支える構図が鮮明だ。

 関税政策の経済影響は従来の想定を上回る複雑さを見せている。輸出国ではなく米企業が負担を吸収している構図が浮き彫りとなり、米国の輸入物価は変わらず、生産者物価指数では企業の利幅圧縮が示唆される。WGCは「企業利益の圧迫と消費者物価上昇というスタグフレーション的な要素」が見え始めたと分析。この現象は1970年代の経験を想起させ、金融政策の有効性に根本的な問題を提起している。

 中央銀行は政策運営の難しさに直面している。米連邦準備制度理事会(FRB)は18日の会合で金利据え置きが確実視される中、関税による一時的なインフレ上昇を注視する姿勢。しかし、この「一時的」との判断が誤った場合、政策対応の遅れが致命的となりかねない。欧州中央銀行は5日に利下げ実施後、7月は見送る見通しで、政策の方向性に迷いが生じている。

 投資家にとって重要なのは、現在の金価格上昇が投機的なバブルではなく、構造的な経済変化を反映している点だ。WGCは「スタグフレーション的な環境は歴史的に金にとって好材料」と指摘する一方、これまでの大幅上昇により「追加上昇の実現はより困難になっている」との慎重な見方も示した。ただし、政策リスクが現実化すれば、金価格の上値余地はまだ残されているとみられる。今後は実体経済への影響度合いが金価格の方向性を左右する決定的な要因となりそうだ。

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