ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が発表した2025年11月の月次報告は、金市場が短期的な過熱感と長期的な強気要因の綱引き状態にあることを浮き彫りにした。10月は史上最高値を更新後に反落したが月間では5%高と底堅さを見せた。地政学リスクが下値を支える一方、テクニカル指標は調整を示唆。ファンダメンタルズの強さが短期的な売り圧力を吸収できるか、市場の関心はそこに集まっている。
2025年10月の金価格は、20日に1オンス4294ドルと今年50回目となる異例の最高値を記録した。この節目達成は歴史的な強気相場を裏付ける一方、相場の過熱感を市場参加者に強く意識させる結果となった。案の定、その後は利益確定売りに押され、月末には4012ドルまで下落。短期的な急騰に対する当然の調整と言える。
WGCの分析では、価格上昇の背景に地政学リスクの高まりがある。しかし、より注目すべきは、米政府機関の一部閉鎖でCOMEXの先物データが利用不能になった点だ。これにより投機マネーの動向が不透明になり、市場参加者の警戒感を強めている。見えないリスクこそが、ボラティリティを高める要因となるからだ。
テクニカル面では、RSI(相対力指数)などの指標が短期的な調整局面入りを示唆している。これは急騰後の「健全な一服」と見るのが自然だろう。今後の下値としては、まず3800ドルが意識される。この水準は押し目買いを狙う投資家にとって重要な心理的節目となる。ここを割り込むと、4月の高値である3500ドルまでが視野に入り、強気派と弱気派の攻防が激化しそうだ。
一方で、ファンダメンタルズは依然として金価格の強力な追い風だ。株式と債券の相関が高まる異例の市場環境で、分散投資先としての金ETFへの資金流入は構造的な動きだ。さらに、各国中央銀行によるドル離れを背景とした金購入の動きも続いている。WGCが過去のチャート形状に頼る分析手法の危うさに言及した点も興味深い。これは、現在の金市場が目先の需給だけでなく、世界経済の構造変化を映す鏡であることを示唆している。


