「相場の世界で億を稼ぐ」――多くのトレーダーが夢見るその言葉は、華やかさと同時に厳しい現実を伴う。日本にも、表舞台には出てこないが、静かに巨額の利益を積み重ねているトレーダーたちがいる。そんな彼らの素顔と哲学に迫った一冊が、林知之氏による『億を稼ぐトレーダーたち』だ。
成功者たちの「負け方」に注目せよ
本書に登場するトレーダーたちは、株式・FX・先物など、それぞれ異なる市場で成功を収めている。しかし興味深いことに、彼らが語る成功の秘訣には、共通したキーワードがある。それは「負け方」だ。
例えば、10億円以上を稼ぎ出したシステムトレーダー・柳葉輝氏は、「人間は相場で損するようにできている」と断言する。だからこそ彼は、自分自身の感情やこだわりを極力排除し、機械的なルールに従ってトレードを行うことで、大きな成果を上げてきた。
また、わずか5カ月で資産を500%以上増やした杉山晴彦氏も、「意地を張らずマーケットに従うことが大事」と語る。自分の予測やプライドに固執せず、柔軟に相場の流れに身を任せる姿勢が、大きな利益につながったという。
失敗経験こそ最大の財産
本書では、多くの成功者が過去の失敗談についても赤裸々に語っている。例えば橋田新作氏は、数々の失敗から徹底的に学び直し、その経験を糧として2年間で1億円以上を稼ぎ出した。彼らは口を揃えて言う。「失敗から逃げず、その原因と向き合い、自分自身を変えることが大切」だと。
「魔術師」ではなく「職人」である
アメリカには『マーケットの魔術師』という有名なインタビュー集があるが、この『億を稼ぐトレーダーたち』はまさにその日本版とも言える内容だ。ただし、本書に登場する日本人トレーダーたちは、自らを「魔術師」とはまったく考えていない。むしろ彼らは、自分自身を地道な努力と検証を繰り返す「職人」として捉えている。
成功への近道とは?
本書から学べる最大の教訓は、「成功への近道など存在しない」というシンプルな事実かもしれない。どんな天才的なトレーダーでも、最初から勝ち続けてきたわけではない。彼らは失敗と挫折を繰り返しながらも、それでも諦めず、自分自身と向き合い続けてきた。その結果として、「億」という数字がついてきただけなのである。
華やかな成功の裏側には、必ず地道で泥臭い努力がある。本書はそれを改めて教えてくれる一冊だ。