金価格に潜む調整リスク、歴史が示す警戒シグナル=WGC

 ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)は10日、金価格の急騰に対する下落リスクを分析した報告書を公表した。米国の金利動向や地政学リスクの緩和が、過去の急落局面の引き金だったと指摘。短期的な調整シナリオに警鐘を鳴らす。

 2022年後半から歴史的な上昇を続けた金価格。その勢いを支えてきた地政学リスクや中央銀行の旺盛な買いが、一転して価格を押し下げる「両刃の剣」になりかねないとの見方が浮上している。WGCの分析は、熱狂の陰で高まる機会費用とリスク選好の変化に焦点を当てており、市場の過熱感に冷や水を浴びせる格好だ。

 報告書が提示する短期的な調整シナリオは三つ。ウクライナや中東情勢の鎮静化で安全資産への需要が後退する「平和な世界」の到来。そして、堅調な米経済を背景に高金利が維持され、ドル高が進む「偉大なアメリカの復活」。これは、市場で議論が続く米経済の軟着陸シナリオが、金には逆風となり得ることを示唆する。最後に、急騰後の反動で投機資金が流出する「勢いの枯渇」である。

 過去の分析で特に注目されるのが、1987年から約12年続いた長期下落局面だ。冷戦終結を受けた西側諸国の中央銀行による継続的な金売却が主因だった。しかし、現在は新興国を中心に中央銀行が金を買い増す構造に変化している。この一点が、過去の長期低迷と現在を分かつ決定的な違いといえよう。短期的な調整はあり得ても、構造的な弱気相場入りは想定しにくいとの見方の根拠がここにある。

 WGCは長期的なリスクとして、暗号資産(仮想通貨)との競合や主要国での若者の「金離れ」なども挙げる。ただ、これら構造変化が現実となる可能性は低いと分析。新興国中銀の金準備が依然低位なことなどを理由に、金の構造的な強気相場は揺るがないとの立場を崩さない。目先の価格変動リスクを警告しつつも、長期的な価値への信頼をにじませる、バランスの取れた内容だ。

 

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