ワールド・プラチナム・インベストメント・カウンシル(WPIC)は2025年から2029年にかけ、プラチナ市場は年間平均62万オンスの供給不足が続くと予測した。価格上昇にもかかわらず、供給増加は限定的で需給バランスは引き続きタイトな状況だ。
WPICによる最新のプラチナ需給予測は、構造的な供給不足の継続を示している。プラチナ価格は2025年にかけて大幅に上昇し、中国市場ではジュエリーと投資需要が著しく伸びたものの、これが短期的な価格上昇を超えて供給拡大や需要増加の根本的な変化に繋がるという見方は慎重だ。プラチナの需給は年間約8%の供給不足で推移し、この需給タイト感が価格の下支え要因となっている。
鉱山供給は南アフリカやジンバブエ、ロシア、北米の既存鉱山が主体で、新規開発案件の停滞が長期的な供給増加を阻んでいる。特に深刻なのは、新規鉱山開発に10年以上の時間がかかり、かつ資本投入に慎重な鉱山会社の姿勢だ。このため、現在の高いプラチナ価格が即座に増産につながるとは考えにくい。リサイクル供給は価格上昇で改善されているが限界がある。
一方、需要面では自動車用プラチナが主力だが、電動車や燃料電池車(FCEV)普及の鈍化により、自動車向け需要の先行きには見通しの難しさがある。特にFCEVの成長が想定よりも遅れていることは、プラチナ需要にとってリスク要因だ。ただし、中国でのプラチナジュエリー需要は価格競争力から一定の増加傾向が見られ、宝飾品市場が需給バランスの下支えとなっている。
パラジウム市場は2025〜26年にかけ供給不足が続くが、リサイクル供給の拡大により2027年以降は供給過剰に転換する予測だ。ただしリサイクル量の伸びが期待通りでなければ、供給不足が長期化するリスクも依然として残る。
プラチナが抱える最大の課題は、需給ギャップの持続的な存在とそれに伴う価格高騰が、供給側の成長を促しきれない構造的制約である。地下深くの鉱山開発はコスト高と技術的ハードルが高く、需要減少圧力が強まる自動車セクターとのバランスも複雑だ。これが市場の不確実性を高めている。
ただし、需給のひっ迫感はプラチナの投資魅力を向上させる側面もある。市場在庫は急速に減少しており、不足感が価格のボラティリティを押し上げる可能性がある。投資家や産業界は、この需給構造と政治・経済の地政学的リスクを勘案し、慎重な対応が求められるだろう。
今後の着目点は、中国の消費動向が持続するかどうか、そして自動車産業における燃料電池車や電動車の普及速度が予測通り進むのかにかかっている。加えて、新規鉱山開発プロジェクトの進展や、各国の環境規制強化の影響も見逃せない。プラチナ市場の先行きを見定める要素は多岐にわたり、これらが複雑に絡み合うことで市場の動向が形成される。
全体として、プラチナの需給構造は短期的に大きく変動しにくいものの、中長期では供給制約の存在が価格の下支えを続けるというシナリオが堅固だ。市場関係者は、この構図を踏まえつつ、変動要因の動向を注視する必要がある。