米鉱山大手がロシア産パラジウムの不当廉売を訴え、米政府が制裁関税を検討している。地政学リスクが貴金属市場に波及し、供給懸念から価格が高騰。自動車産業などへの影響は必至だ。ワールド・プラチナム・インベストメント・カウンシル(WPIC)のレポートで明らかになった。
米国の鉱山大手らがロシア産パラジウムに対し、反ダンピング(AD)関税などの適用を米政府に申し立てた。国内生産が先細る中、ロシア依存が高まった供給網の脆弱性が露呈した形だ。国内産業保護を名目にした措置は、貴金属市場の分断を招きかねない。
申し立ては2025年7月。これを受け、供給不安を先取りした投機資金が流入し、パラジウム価格は既に25%上昇した。米地質調査所(USGS)は、ロシアからの供給が完全に途絶えれば、国内価格が最大24%上昇する可能性があると分析。市場の緊張は高まる一方だ。
ロシアは2024年、米国のパラジウム輸入量の4割を占める最大の供給国。一方で米国の鉱山供給とリサイクル供給は過去3年で3割近く減少しており、ロシア依存の構造が鮮明になっていた。短期的な供給ショックは避けられず、需給逼迫が価格をさらに押し上げる公算が大きい。
影響は主用途である自動車産業に直結する。排ガス浄化触媒に不可欠なパラジウムの価格高騰は、自動車メーカーのコストを圧迫する。長期的には、代替材であるプラチナへの需要シフトを加速させる可能性がある。WPICはプラチナ市場も供給不足が続くと予測しており、貴金属市場全体の構造変化を促す引き金となりそうだ。
米商務省は既に828%という極めて高い推定ダンピングマージンを決定済み。関税が現実となれば、米国とその他地域で価格差が生まれる「市場の分断」が進む。企業は供給網の再構築を迫られる。今回の動きは単なる通商問題にとどまらず、ウクライナ情勢を巡る対ロシア経済包囲網の一環という地政学的な側面を色濃く持つ。