金需要、投資主導で「新たな局面」へ=WGC報告書が示す二極化

 ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の2025年第3四半期報告は、金市場が新たな局面に入ったことを鮮明にした。投資需要が全体を牽引し総需要は過去最高の1313トンに達した一方、宝飾品需要は価格高騰で低迷。実需と投資の「二極化」が進む構図が浮き彫りになった。

 市場を席巻しているのは、資産防衛と利ざや追求という二つの思惑が交錯する投資マネーだ。地政学リスクの高まりや米国の金融緩和期待が安全資産としての需要を喚起。さらに、価格上昇が「FOMO(取り残される恐怖)」を煽り、投機的な買いも呼び込んでいる。ETF(上場投資信託)に222トンもの資金が流入した事実は、機関投資家が本格的に動いている証左と言える。金市場はもはや、一部の愛好家のものではなく、世界的な金融市場の主要なプレイヤーとなった。

 その一方で、実需の柱である宝飾品市場は価格高騰に喘いでいる。需要量は前年同期比19%減の371トンと大幅に落ち込んだ。これは、消費者が金への憧れを失ったのではなく、単純に手が届かなくなっている「価格負け」の状況を示唆している。消費額自体は同13%増えており、限られた予算内で金を求め、より軽量で低カラットの製品へとシフトする消費者の苦渋の選択がみてとれる。宝飾品業界は、デザインの工夫などで付加価値を高める戦略への転換を迫られそうだ。

 静かなる地政学的変動の表れとも言えるのが、各国中央銀行の動向だ。第3四半期も220トンの金を買い越し、外貨準備の多様化を進める。これは米ドルへの過度な依存を見直す「脱ドル化」の潮流と軌を一にする動きだ。世界情勢の不確実性が高まる中、国家レベルでの資産防衛策として、金が改めてその価値を認められている格好である。この動きは、金価格の強力な下支え要因として機能するだろう。

 供給面では、リサイクル金の伸び悩み(前年同期比6%増)が市場の強気心理を裏付けている。さらなる価格上昇を見越した売り控えが広がっていると分析できる。今後、金市場は投資マネー主導で価格が形成される展開が続くとみられる。しかし、実需である宝飾品市場との乖離が拡大すれば、市場の不安定要因にもなりかねない。投資熱と実需の綱引きが、今後の金価格の行方を占う上で最大の焦点となる。

 

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