ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が公表した2026年の市場展望『Gold Outlook 2026』は、歴史的な高騰を見せた金相場が重大な岐路に立っていることを示唆した。2025年は年間で60%を超える上昇を記録したが、26年は市場環境次第で「さらなる伸長(Push ahead)」か「後退(Pull back)」か、方向性が大きく分かれる。基本シナリオは横ばい圏内だが、リスクシナリオの振れ幅は最大30%の上昇から20%の下落まで広がっており、投資家にとって極めて難解な一年になりそうだ。
2025年の金市場は、1オンス4294ドルに達するなど年50回以上の最高値更新を記録する異例の展開だった。この原動力となったのは、地政学リスクの激化とドル安、そしてモメンタム(勢い)の3要素だ。特筆すべきは、株や債券との相関が崩れるなかで、金が「唯一の安全資産」として選好された点である。ただ、急ピッチな上昇は過熱感を伴っており、市場には高値警戒感が根強く残る。WGCも、26年の相場が25年のような一本調子の上昇にはならないと釘を刺す。
WGCは2026年のシナリオとして、市場コンセンサスである「現状維持(レンジ相場)」に加え、3つの分岐シナリオを提示した。注目は、世界経済が深刻な不況と分断に陥る「負の連鎖(Doom loop)」シナリオだ。この場合、逃避資金の流入で金価格は現水準から15%から30%上昇する可能性がある。一方で、トランプ政権の政策が奏功し経済が再加速する「リフレ回帰(Reflation return)」となれば、金利上昇とドル高が逆風となり、5%から20%の調整を余儀なくされる。この「プラス30%かマイナス20%か」という極端な見通しこそが、現在の不確実な世界情勢を如実に物語っている。
需給面での隠れたリスクとしてWGCが挙げるのが、インドの動向だ。2025年は価格高騰による売却(リサイクル)が増えると見られたが、実際には金を担保にした融資が急増し、200トン以上の宝飾品が担保に入ったと推計される。これは売り圧力を先送りしたに過ぎない。もし経済が悪化し返済不能が増えれば、担保処分による強制的な売りが市場を襲う「隠れた爆弾」となり得る。
ファンダメンタルズに目を向けると、中央銀行による金購入は続いているものの、政策判断次第でペースが鈍化する可能性も否定できない。しかし、WGCは結論として、不測の事態が常態化する現代において、金の分散投資効果は依然として不可欠だと強調する。2026年の金市場は、マクロ経済のデータだけでなく、こうした構造的な需給の変化や地政学的な「テールリスク」にいかに反応するかが試される展開となるだろう。

