ワールド・プラチナム・インベストメント・カウンシル(WPIC)の最新分析で、プラチナ市場の構造的な需給逼迫が明らかになった。価格が10年ぶりの高値に急騰しても需給は反応しにくく、2025年も大幅な供給不足が続く見通し。価格メカニズムが機能しにくい市場の硬直性が、高値の長期化を招く公算が大きい。
WPICが公表したリポートは、プラチナ市場が直面する深刻な不均衡を浮き彫りにした。2025年には96万6000オンスに達する大幅な供給不足を予測する。価格は年初から55%も上昇し10年ぶりの高値を付けたが、市場の反応は鈍い。この需給が価格に反応しにくい「非弾力性」こそが、異例の事態が続く核心である。
供給面の硬直性は根深い。プラチナ鉱山の多くは、パラジウムなど他の白金族金属(PGM)と共に採掘される。このためプラチナ単体の価格が上がっても、鉱山会社は事業全体の採算をみて慎重に投資を判断する。価格シグナルがすぐには増産に結びつかない構図だ。仮に増産を決めても、新規鉱山の本格生産までには8年から9年を要する。短期的な価格高騰が供給増に反映されるには、あまりに長い時間が必要となる。
需要サイドも価格上昇への耐性が強い。最大の用途である自動車の排ガス触媒向けは、むしろ過去の価格上昇局面で需要が拡大した経緯がある。環境規制の強化が、価格要因を上回る需要の牽引役となっていると分析できる。宝飾品分野では、歴史的な高値圏にある金からの代替需要が中国などで顕在化。工業用途も短期的な価格変動には左右されにくく、需要は底堅さを維持する見通しだ。
この需給の構造的なミスマッチが、市場の先行きに影を落とす。WPICは供給不足が少なくとも2029年まで継続し、最終的に地上在庫が枯渇するシナリオも示す。これは投資対象としての魅力を高める一方、産業界にとっては安定調達を脅かす重大なリスクという二面性を持つ。供給不安は代替材料の開発やリサイクル技術の高度化を促す圧力ともなろう。
プラチナ市場は、価格による調整機能が働きにくい特異な局面に入ったと言える。構造的な供給不足が続く限り、価格は高止まりするか、更なる上昇も視野に入る。一方で、この需給の歪みは価格の変動率を高める要因にもなりかねない。投資家、産業界ともに、市場の構造変化を前提とした長期的な視点が不可欠である。