世界の金市場で安全資産としての金が再び存在感を高めた。2025年第2四半期、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)は投資主導の歴史的高需要を記録したと発表した。価格急騰の裏で宝飾品需要は大きく減少し、「二極化」が鮮明となった。
世界経済の不確実性が投資行動を変えつつある。金ETFへの需要が地政学リスクや米ドルの先行き不透明感、さらにはインフレ懸念を契機に世界的に拡大。第2四半期の総需要は1,249トン。価値ベースの総需要はなんと1,320億ドルと、前年比45%増の過去最高を更新した。
この背景には先行きに対する投資家の「警戒感」と「逃避志向」がある。米中対立の長期化や中東情勢の緊迫が続くなか、株式・債券と異なり金は「最後の安全網」との意識が強まった。特に中国本土では株価低迷や不動産低迷への不安が高まり、金への資金流入が加速。二桁成長となる44%増、115トンと突出した。
金地金や金貨への投資も二桁増となり、過去最高水準の勢い。「高値追い」の心理が一因だが、個人投資家だけでなく機関投資家や富裕層によるオルタナティブ資産志向も背景にあるとみられる。筆者の見方では、米利下げ観測や政策金利のピークアウト感が金の魅力を相対的に高めている点も無視できない。
一方で、宝飾品向けの需要は大幅減。価格上昇が消費者の身近な金購入を著しく抑制した。世界全体で14%減少し、341トンにまで落ち込んだ。これはコロナ禍以来の低迷であり、中国、インドの両大国では過去5年で初めて世界シェアが5割を切る減少幅となった。中国では直近5四半期連続で二桁の落ち込み。消費者心理の冷え込みと高価格への対応の遅れが要因であり、小売店舗の減少も消費を下押しした。
供給面では、新興国鉱山の増産がグローバル供給を支えた。第2四半期の鉱山生産は過去最高の909トン。ガーナやブラジル、カナダ、ウズベキスタンでの新規プロジェクトが功を奏した。ただしインドネシアやメキシコでは操業休止などで生産は減少、リスク分散の必要性を浮き彫りにした。
リサイクルも価格高騰を受け増加したが、直近の需給環境を考えれば「抑制気味」にとどまった。特にインドでは宝飾品の現金化よりも、旧金製品を担保に消費ローンを受ける動きが目立ち、売却圧力は限定的だった。これは金保有者の先高観が強い象徴と言える。
中央銀行の需要は依然底堅いものの、過去2四半期連続でペースは減速、166トンの純購入。ポーランド、トルコ、カザフスタンなどが積極調達したが、価格高騰の影響で一部中銀の手控えや利益確定売りも見られる。だが中長期的にみれば、米ドル資産の分散先として金への構造的シフトは今後も続くとの見方が市場には強い。
今後の注目点は、金価格のさらなる上昇余地と金融政策の方向性だ。筆者は世界的な政策金利低下局面入りや地政学リスクの長期化、また新興国中心の需要拡大が引き続き金市場を支えると予測する。一方で、宝飾品部門の回復には可処分所得や消費センチメントの底上げが不可欠だ。
グローバルな政経リスクが複雑化する現在、金市場は「逃避から戦略的保有」への転換点を迎えている。投資家はもとより、消費動向や鉱山戦略、リサイクルの動きにも今後一層注視が必要だ。