コメ上場のハレーション【紙面】

どうなる真夏の異変

 出来高の長期低落基調による流動性低下に伴う市場縮小という後退戦を強いられてきた我が商取業界に、待望久しいビッグ・ニュースがもたらされた。

いうまでもなく、農林水産省によるコメの試験上場認可である。


これを受けて、東京穀物商品取引所(渡辺好明社長)、関西商品取引所(岡本安明理事長)はともに、8月8日の取引開始を決定した。

業界にとって悲願でもあり、最大の念願であったハズのコメ先物が認可(72年ぶりの復活)となったのだから、なでしこジャパンではないが、お祭り蘇ぎとまでは行かなくとも、もう少し盛り上がって良いにもかかわらず、業界人の反応にはどこか冷めたムードが漂っている。

もはや、たんなる新規商品の上場どころでは再生不能なまでに市場は疲弊し、業界も衰退してしまったということなのだろうか…。

東穀取が方針転換

 コメ上場は一方で、東穀取にょる東京工業品取引所(江崎格社長)への農産物市場の移管の撤回という副産物を生み出すことになった。

周知のように、東穀取は出来高低迷による経営不振から農産物市場を守るとの観点に基づき、業界挙げての東工取への市場移管を求められたことから、来年七月にも移管すると
ともに、事実上の解散、東工取との統合が既定方針となっていた。

東工取の江崎社長も某全国紙とのインタビューで、「東穀取は廃止して、上場商品だけ引き取る格好で統合する予定」と明言していたほどである。

 ところが、東穀取はコメ先物の認可を受けてこの市場移管方針を撤回。

単独で市場を継続することに転換した。

この突然の路線変更の背後には農水省の意向があるとされているが、では同省の真意はどこにあるのだろうか。

いうまでもなく、コメ先物については試験上場であろうとも徹底的に反対するというJA (農協)グループの存在が絶えず懸念材料となっていた。

しかし、法理論的にいうなら、試験上場を否定する根拠はなく、行政の立場からすれば、コメ上場は確定方針だったといえよう。

市場統合の行方は?

 さながら、JAの先物アレルギーは結局は感情論に過ぎず、東日本大震災と原発事故という特殊事情はあるにしても、民主党政権という政治環境もあって、JAの反対はかつての自民党農林族が持っていたような影響力はなかったといえよう。

ではなぜ、ここにきて農水省は東穀取の存続に舵を切ったのだろうか。

伝えられるところでは、コメという先物商品を東工取という経済産業省管轄の取引所に上場させるのではなく、自らの直接的な監叔目権の及ぶ取引所(関西取を含め)でコントロールすることを選んだ ―― といわれている。

これはもちろん、憶測に過ぎないが、農水省が本上場の可否を巡るイニシアチブを経
産省に奪われたくなかったというのが本音とみる見方もある。

とすれば、今回の方針転換は、本上場は認めないというJAグループに対するイクスキューズというのはいささか深読みが過ぎるだろうか。

 いずれにしても、では、農産物市場への東工取の移管を求めた株主(業界)の意志はどうなるのだろうか。

また、公共性は高いとはいえ、株主の意志によって決定された私企業の経営方針が行政の意向によってかくも簡単に変更されるとしたら、企業ガバナンスの観点から問題があるとはいえないのだろうか。

そもそも、東穀取と東工取の市場(経営)統合については、売買システムの一本化はともかく、企業風土(文化)の差や、両取引所の設立以来の経緯を含めて、業界内にも異論があったのは事実である。

ところが、そうした声はたんに少数であるとの理由で無視されて、市場移管が既成事実化していたのにもかかわらず、コメ上場一発で事態が急変するというのは、いかにも場当たり的というか、一貫性に欠ける面は否めない。

カギは社会認知

 コメ上場が東穀取および関西取にもたらすインパクトは決して小さくはないであろう。

しかし、不招請勧誘の禁止を含め、業界を取り巻く環境は極めて厳しいものがある。

コメ上場だけが救世主的なスーパー・パワーを発揮して、国内市場と業界を一気に立て直し、かつての隆盛(市場規模)を取り戻すことができるなどという保障はどこにもない。

また、まさに業界にとってはスーパー・スターといえるコメの上場がストレートに公正な価格形成や当業者のヘッジの場を提供することで、先物取引による産業インフラの確立に結びつくかといえば、金や石油の上場とその後をみれば、必ずしも楽観できるわけではな
い。

 それでも、金の国際市況が1トロイオンス=1600ドルを突破するなかで、世界的なスケールで先物市場の機能と役割が拡大の一途を辿っているのは紛れもない事実である。

今年1-6月の商品先物総出来高(オプション除く)は1671万8868枚と前年同期比0.2%の減少だった。

昨年12月に全取引を停止して中部大阪商品取引所が姿を消そうが、不招請勧誘が禁止された商品先物取引法が施行されようが、国内市場のポリユウムとニーズは〝一人前″のビジネスに至っていない。

コメ上場がもたらすであろう様々なハレーションがどのようなものとなろうとも、社会における認知と浸透がなければ業界の未来はないということだけは不変の真理である。