社会的必要性が鍵に

プロに徹してニーズ創れ

 FIA(全米先物業協会)がまとめた2011年の世界商品取引所別出来高ランキングのベスト・テンは、①ニューヨーク・マーカンタイル取引所(米)②インド・マルチ商品取引所(印)③上海先物取引所(中)④鄭州商品取引所(中)⑤インターコンチネンタル取引所・欧州(英)⑥シカゴ・ボード・オブ・トレード(米)⑦大連商品取引所(中)⑧ロンドン金属取引所(英)⑨インターコンチネンタル取引所・米国(米)⑩インド国立商品・デリバティブ取引所(印) - となっている。

 一位のNYMEXの出来高は5億4490万枚、中国3取引所の合計出来高は7億7680万枚、10位のインドの取引所で4190万枚だった。これに対して、日本の東京工業品取引所が、3160万枚、全体でも3450万枚と、ランク最下位にさえ大きく水を開けられているのは周知の通りである。

周回遅れの対策

 ここでは、日本の商品先物市場の後退や地盤沈下をあらためて指摘しようというわけではない。昨年1月に商品取引所法から商品先物取引法に移行。商品先物法制が取引所取引限定から海外先物やOTC(店頭取引)を含めたデリバティブ(派生商品)全般に及ぶこととなった。一方、今年9月6日には改正金融商品取引法が成立。証券など金融分野と商品先物の規制一元化や、いわゆる総合取引所設立への法的整備が行われた。これによって、法制度的には国内先物市場は国際標準(グローバル・スタンダード)としての体裁は整ったことになる。また、農水・経産両省は金融庁の権限強化を横呪みする格好で、産業構造審議会の答申を受けたことを理由(?)に不招請勧誘禁止や一任取引について部分解禁する規制緩和に向けた省令改正案を打ち出してきた。さすがに、ここまで冷え込んだ国内商品先物市場の惨状に主務省もようやく危機感を抱いたということなのかもしれないが、その対応は結局のところ、前例主義と無謀主義に基づく無責任の体系である官僚主義以外の何物でもないようだ。

 改正金商法にせよ、主務省令の改正にせよ、これで国内の商品先物の売買が活性化し、ましてや市場(マーケット)そのものが流動性を一気に回復して、かつてのポリユウムや投機人気を取り戻せると考えている者は皆無であろう。それは業界人はもちろん、当業者も一般投資家も含め、恐らくは行政じしんが全く信じていないであろうことは、様々な関係者の言動からも明らかである。つまり、誰も本気で国内市場の再生を求め、そのために何をなすべきかの真剣な議論や取り組みが欠落していることが、日本の商品先物の最大の悲劇なのではないか。

市場破壊の元凶

 もはや明らかなように、冒頭の世界の商品取引所ランキングでは、そもそも分厚い市場経済を背景に、生産と流通の拠点でもある欧米の取引所が上位に来るのは当然である。さらに、中印の取引所がランク・インしているのは、インドが国策として商品取引所の育成を図る一方、中国は社会主義市場経済という共産党一党独裁によって、事実上の国家事業として商品先物市場を運営している。要するに、元々巨大マーケットが存在していたり、国を挙げて振興したりすれば、その市場や取引所が発展、成長するのは必然であり、しかもそれらが国境を越えて合従連衡するとなれば、巨大(ワールド・ワイド)な再編が行われるのは当たり前ということになる。

 他方に我が国ではかつての外務員営業が事実上の無差別勧誘となることによって委託者紛議(トラブル)が多発。委託者保護が消費者保護と連動することで商取行政の中心課題となり、先物市場の基本である自己責任原則が崩壊。さらには、見なし当業者ということで、いわゆる大手商社によるオーバー・ヘッジや不当な市場コントロールが、結果的に国内マーケットを疲弊に追いやったのである。これに懲りて規制一辺倒に突っ走った行政の姿勢に問題があったのは事実として、今日この事態に至った商取業界の責任もまた免れるものではない。

ジリ貧の回避は?

 ふたたび冒頭のランキングを振り返るなら、こうした上位に共通しているのは、それぞれの国や社会が商品先物の必要性を理解し、社会そのものが自ら商品先物市場を利用し、取引するというモチベーションを持っているということにつきる。つまり、日本の商品先物市場の拡大・発展は、ひとえに社会(国民)が商品先物取引を必要と感じ、利用(参加)してみたいと考えない限り、ヘッジであろうと資産運用であろうと、所詮はマーケットの体裁(かたち)があるだけとなって、事態は現状のままジリ貧を続けることになるのではないか。

 いま必要なのは、業界自身が真のプロフェッショナルになることである。商品のプロ、相場のプロ、先物取引のプロ、法制や市場システムのプロ、政治・経済のプロ、天候のプロ、歴史や伝統、文化・芸術のプロ。とにかくありとある人間社会の森羅万象に精通するプロであること、あるいは少なくともそうした自我を目指そうという心意気が、社会のなかに商品先物へのニーズを生み出す原動力となるのではないだろうか。

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