ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシル(WPIC)は19日、2025年の世界プラチナ市場が3年連続の供給不足となる見通しを発表した。供給不足は96.6万オンス(約30トン)の見込みで、前年の99.2万オンスに続く大幅な不均衡となる。米国の関税政策の不確実性が市場を揺るがす中、南アフリカの供給減少が続き、地上在庫が一段と減少する構図だ。
供給面では、世界の鉱山生産量が前年比6%減の542.6万オンスとなる見通し。特に南アフリカの生産が6%減の386.9万オンスと低迷する。第1四半期は豪雨による洪水被害もあり、同国の生産量は前年同期比13%減と急減した。PGM価格の低迷により鉱山各社は約7500人の人員削減を実施するなど、構造的な供給縮小の動きが加速している。リサイクル供給は3%増の157.3万オンスと回復するものの、鉱山生産の減少を補いきれず、総供給は4%減の699.9万オンスとなる見込みである。
需要面では、自動車向けが2%減の305.2万オンス、工業用が15%減の211.1万オンスと予測される。工業用需要の落ち込みは、ガラス製造用プラチナが中国での設備投資一巡により58%減少するためだ。一方、宝飾品需要は5%増の211.4万オンスと堅調な伸びが期待されている。世界的に金価格が高騰する中、より手頃な価格のプラチナへのシフトが進んでいる点は注目に値する。
米国のトランプ政権による関税政策への懸念から、第1四半期には米国内のNYMEX取引所にプラチナが大量に流入。在庫は36.1万オンス増加し、63.1万オンスに達した。この動きは現物と先物の価格差(EFP)を一時65ドル/オンスまで拡大させ、市場の混乱を招いた。ただ4月2日の関税詳細発表では、プラチナ地金の多くが「戦略的重要鉱物」として関税対象外となり、市場に一定の安心感をもたらした。この事例は、一国の政策変更が資源市場に与える影響の大きさを改めて示したと言える。
中国では金価格の高騰を受け、プラチナ宝飾品への乗り換えが急速に進んでいる。同国の宝飾品需要は前年比15%増の47.4万オンスと予測を上方修正。これは金とプラチナの価格差が歴史的に見ても極めて大きいことが背景にある。また小売投資需要も前年比48%増と急拡大しており、中国国内のTikTokでプラチナバーの販売が始まるなど、販売チャネルも多様化している。こうした動きは、自動車の電動化による需要減少懸念をある程度相殺する可能性がある。
市場のひっ迫感を反映し、プラチナのリースレートは第1四半期に一時13%まで急騰。前年第4四半期の約1%から大幅に上昇した。5月初旬には約7%まで低下したものの、依然として高水準を維持している。これは物理的な現物の入手困難さを示す重要な指標だ。今後は米国の政策動向次第で再び市場が混乱する可能性も残る。
WPICは、プラチナの地上在庫が2025年末までに需要の約3カ月分に相当する216万オンスまで減少すると予測。供給不足は需要の12%に相当する大きな規模で、このような状況は持続不可能である。世界の供給の7割を南アフリカに依存する脆弱なサプライチェーン構造を考えれば、中長期的には価格上昇による需給調整が不可避であろう。金価格に比べて割安感が強まっているプラチナは投資資産としての魅力も高まっており、今後の価格上昇ポテンシャルに注目が集まる。