ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が4日に公表した8月報告で、金価格が1オンス3,429ドルへ急騰し、過去最高値に迫ったことが明らかになった。景気後退とインフレが同時進行する米国のスタグフレーション懸念を背景に、ETFを中心に投資資金が流入した。
金の国際価格が、歴史的な高値圏で推移している。8月末の価格は1オンス3,429ドルと月間で4%上昇し、年初来では31%の大幅な値上がりを記録した。この上昇は米ドル安の局面でも衰えず、円やユーロなど全ての主要通貨建てで価格が上昇する異例の展開。市場の過熱感を示すものではなく、質への逃避が本格化している証左といえる。
今回の価格上昇を牽引するのは、米国のスタグフレーションに対する市場の根深い懸念だ。景気が後退局面に向かう一方で、インフレは高止まりするとの見方が拡大。これは、株式や債券といった伝統的な資産の価値を同時に毀損しかねない、投資家にとって最も厄介なシナリオである。この複合リスクへの備えとして、実物資産である金に資金が流入するのは当然の帰結だ。
市場の主役交代も、現在の金相場を読み解く上で重要な視点となる。これまで相場を支えてきた中国など新興国の需要がここにきて一服。代わって市場の主導権を握ったのは、金融政策やマクロ経済の動向に敏感な米国の投資家だ。特に金価格連動型上場投資信託(ETF)には8月だけで55億ドルもの資金が流入しており、米国勢の買い意欲の強さを物語る。
この動きは、金市場の性質が変化していることを示唆する。中央銀行などによる不透明な買いから、ETFの資金フローという透明性の高い指標へと価格決定の主軸が移行しつつある。これは、今後の相場がFRBの金融政策や米国の経済指標に対し、より直接的かつ敏感に反応するようになることを意味する。
ただし、投資家の間で金に対する見方が一枚岩というわけではない。WGCの分析によると、スタグフレーションを強く警戒するETF投資家が買い進める一方、短期筋の多い先物市場の投資家は金利動向を注視し、買いに慎重な姿勢を崩していない。長期金利の上昇は、金利を生まない金の魅力を削ぐためだ。今後の金価格は、インフレと景気後退の狭間で揺れるFRBの政策判断と、それに対する市場心理の綱引きによって方向性が決まる重要な局面を迎えている。