ワールド・プラチナム・インベストメント・カウンシル(WPIC)は、2025年のプラチナ市場が年間85万オンス(約26.4トン)の需要超過となる見通しを発表した。プラチナ市場の恒常的な供給不足は3年連続であり、深刻な在庫減少が進む構造にある。
今年第2四半期の特徴は、関税や地政学的要因を背景とした需給の局地的逼迫による価格の急騰であった。米国では関税発動が一時懸念されたが、未加工プラチナの多くは最終的に関税適用除外となり、市場のリスクマネーが欧米から中国へと動いた。中国の輸入は前年同期比26%増と急増し、特に金価格の高騰を受けて、宝飾品と投資用コインの需要が著しい伸びを示した。一方、金との価格差が縮小したことで、中国の需要増加には鈍化も見られている。
南アフリカの主要鉱山での洪水や設備トラブルが2025年前半の供給減につながり、鉱山生産は前年比6%減の542.6万オンスへ縮小する見通しだ。なお、リサイクル供給は価格上昇や中国の自動車解体政策を背景に6%増へ回復した。産出の地域偏在・集中・脱炭素圧力に加え、鉱業投資のリードタイム長期化が供給側の硬直性を強め、プラチナの供給リスクを拡大している。
需要側では、総需要が前年比4%減の787.7万オンスとなるものの、宝飾品分野だけは前年比11%増と際立った伸びとなる。特に中国や欧州での金価格高騰によるプラチナ代替選好が明確だ。工業分野はガラス需要など大口用途のサイクル減速により22%減、自動車向けも電動車シフトや関税の影響で3%減となった。ただし、パラジウム高騰を受けた排ガス浄化用途でのプラチナ代替が堅調に推移し、需要全体の急減は回避されている。
こうした需給逼迫が続き、地上在庫は22年末比で約252万オンス・46%減少。年末時点でプラチナ在庫は2,980トン台まで落ち込む見通しだ。需給のひっ迫は、価格水準の持続的な上昇を通じた新規鉱山投資やリサイクル活性化を促すと同時に、先物やETFへの資金流入が一層進む可能性をはらむ。
今回のWPICレポートで注目すべきは、従来常識視されてきた在庫の潤沢さや市場の「貸し出し」機能の限界が、地政学リスクや需給構造の地殻変動によって再認識された点である。米中欧各地の需給動向や政策対応が局在化する中、地理的・制度的な障壁が市場流動性や調整力を低下させており、従来の「自動安定装置」として働いていた在庫消化・リース市場の能力低下が明白だ。結果として、短期投資マネーや実需筋による現物志向が強まり、高いリースレートやスポット市場重視の動きが鮮明となっている。
プラチナ市場の動向は、供給制約下での新たな価格発見プロセスと、脱炭素・エネルギー転換の文脈における戦略物資としての再評価につながる。金・パラジウムとの価格差も中長期トレンドとして注視すべきだ。足元では短期的な需給ひっ迫とボラティリティ上昇が続く見通しで、新興国や宝飾・投資家の動向次第で需給均衡点の変動も大きく、地政学リスクがプレミアムとして価格に織り込まれる局面が続くだろう。