独自の市場確立が先決

商取り再編の行方と業界の使命

 東京商品取引所(江崎格社長)と大阪堂島商品取引所(岡本安明理事長)が2月12日、発足した。周知のように、東京穀物商品取引所(畑野敬司社長)が8日の日中立会いをもって全ての立会いを終了。旧東京工業品取引所にトウモロコシ、一般大豆、小豆、粗糖を移管して農産物・砂糖市場を開設。他方、コメ(米穀)は旧関西商品取引所に移管して両取引所がそれぞれ名称を変更したことに伴うもの。東穀取は3月をメドに解散を決議し、今夏までには清算業務を終了して、完全にその60年にわたる歴史に幕を閉じることになる。業界人ならその大半の人が、いずれは国内の商品取引所は一本化されるか、あるいは東西二大取引所というかたちに収れんするような再編成を漠然とではあるが想定していただろう。

不本意な東西体制

 とはいえ、それはたとえば東工取と東穀取が実態はともかく、形式上は対等合併し、関西取が大阪証券取引所などと何らかの形態で経営統合するといったイメージのものではなかったろうか。しかし、現実の再編は予想外の東穀取の解散と、コメの唯一の先物取引所となるとはいえ、関西取が「堂島」というシンボルネームを冠することで単独で存続するという、まさに想定外の結末となった。これは、東京・大阪の両証券取引所が日本取引所グループ(JPX)という持ち株会社によって経営統合したことに加え、国内商品先物市場の極端な市場規模の衰退と、東工取、東穀取の企業価値の低下によって証券サイドが総合取引所構想の前提から、既存の商品取引所を排除したからに他ならない。JPXとしては、総合取としての品揃え拡大の観点から、商品先物分野の導入を検討課題のひとつとはしている。しかし、少なくとも現時点では国際商品の指数先物商品の開発(上場)というレベルにとどまっており、国内商取を経営統合の対象とする方向性は皆無である。

 一方、商取サイドといえば江崎東商取社長がJPXとの統合について、「今年半ばまで、遅くとも年内には方向性を明らかにしたい」としている。これは経営判断としては妥当ではあるが、企業戦略としては何も語っていないに等しい。現実問題として、農産物・砂糖市場が東商取の市場拡大にどれほど繋がるかは全く不明である。少なくとも、JPXが自らの傘下に東商取を組み入れることに魅力を感じない限り、それは商取サイドの一人芝居に終わる公算すらあり得ないではない。それよりもむしろ、まずは国内商取のマーケットそのもの、取引所の経営基盤そのものをいかに拡大し、いかに強化するかこそが先決ではないか。

 東商取は設立(1984年)から29年を経て、当初に通産省(=当時)がその英文略称(TOCOM)に込めた意図を名実ともに実現することになった。しかしそれは、崩壊寸前の農産物・砂糖市場を抱えることで経産省と農水省の共管取引所というスタイルとなった。これまでの工業品系の上場品目と農産物市場が相乗効果を発揮して、東商取の経営(業績)の安定化に繋がる期待はあるものの、それもすべては実績次第ということになるのはいうまでもない。

 大阪堂島商取の英文略記はODXとなる。これで、国内の取引所は単独の各証券取引所と東京金融取引所とJPX、TOCOM、ODXとなる。このことじたいにさほど意味はないが、結局、それがビッグ・ネームになるか、大統合されるかはともかく、どれだけの市場参加へのニーズを獲得できるか否かが国内マーケットの未来を決定することになる。折から、経産省ではLNG(液化天然ガス)先物市場開設への検討会が開かれている。その成否はともかく、内外の経済情勢、産業構造の変化に伴って、商品先物市場も新規商品の上場を含め時代や社会に即した臨機応変の対応が求められている。しかし、それが行政や市場(取引所)、業者(業界)の都合や自分勝手な思い込みで行われる限り、決して社会のなかに確固たる立場や地位(存在理由や存在価値)を築くことは不可能である。それは、これまでの業界のありようを振り返れば一目瞭然である。

今なすべきこと

 いま、我々(業界)は何をなすべきなのだろうか。結局、人は何のために商品先物取引を行うかという原点に立ち返って考えるしかない。とりわけ、一般投資家を市場に導入し、そのことによってマーケットの生命線である流動性の原動力を担う受託業者にとって、社会の多様な層から可能な限りの参加者を求め、それらの人々の個々の事情(資金力、取引参加の動機など)に見合ったサポートを全力で果たすことで、商品先物取引の利用方法と利用価値を社会全体に広く浸透させることを企業目的とする以外にないのではないか。厳しい状況は続いているが、そのことの目先の結果、当面の業績に拘泥することなく、大胆な将来展望のもと、自らの役割と使命を信じて、商品先物取引の社会的認知(理解)を高めて行くことができるなら、総合取も官製の国際化も無用となるような独自のマーケットと業界を今度こそ社会に提示できるハズである。その兆しは実はすでにあるのだが…。