鍵は市場運営の内実に

相場次第を超えるため

 商品先物市場の底流にようやく、これまでの縮小一本槍ともいうべき基調に変化の兆しが生じようとしているようだ。もちろんそれは、ほぼ九年近くにわたって続いている出来高不振、流動性低下、投機ニーズの後退によるマーケットそのもののスケール・ダウンと取引所、旧取引員企業による業界全体の衰退にいま、ただちに歯止めがかかり、ドラスチックに市場も商品先物ビジネスが大々的に再浮上を開始するといったレベルでないことは当然ではある。とはいえ、今期に入ってからの商品先物の一日平均出来高でみると、4-8月の通算が99751枚だったのに対し、9月は一転して13万枚中盤での推移へと明らかに水準アップしてきた。

出来高回復?

 これはいうまでもなく金の出来高が国際市況の上昇がもたらしたものではあるが、米中西部での大干バツ被害に伴うとうもろこし、大豆などの減産見通しから史上最高値ラインでの高騰が続いているためである。こうしたなか、東京工業品取引所の一日平均は10万枚に届かない場面が続いていたが、9月は今期の計画枚数である12万6千枚を超えてきた。もっとも、所詮は相場しだいだけに、このまま現状の出来高増加傾向が定着する保証はないものの、行政による規制強化一辺倒で疲弊を余儀なくされてきた国内市場にも細々ながらも先行きに一筋の光明がみえてきた感もある。改正金融商品取引法が成立し、総合取引所を巡る法的整備が固まるとともに、監督や規制権限の金融庁への一本化など、いわゆる先物行政の一元化という構造転換への道筋が示されることにはなった。

 とはいえ、東京、大阪両証券取引所が統合して来年1月に発足する日本取引所グループに組み入れられない限り、商品取引所は商品先物取引法の下で、従来通りの経済産業、農林水産両省の商取行政が継続されるという相変わらずの縦割り行政が温存されることになった。さらには、コメなどを金商法の適用外とする特定商品とすることで、金融庁による権限統一の治外法権化に〝成功″したことは、日本の官僚主義のありようをみせつける格好とはなった。改正金商法実の審議過程で飛び出してきた三省庁による商品先物取引活性化協議会の設置そのものがいぜんとして不透明ななかで、それでも行政サイドに新たな動きが出てきた。

規制緩和の兆しも

 いわゆる不招請勧誘の禁止といった一連の行為規制について、経産省が金融先物や外為証拠金取引の経験者に対して、商品先物の取引所取引の勧誘を認めるというもの。すでに政省令の改正作業に入っているともされており、実現すれば産業構造蕃議会商品先物取引分科会における市場活性化策を巡る論議での業界委員の不招請勧誘禁止の規制緩和への提案が取り入れられることになる。これによる市場拡大効果は限定的なものにとどまるとみられるが、それでも制度論議といえば規制強化一色だった商取行政にもそろそろ、規制緩和による市場拡大による権限確保という選択肢が浮上しつつあるかにみえる。結局、行政も国内市場消滅という非常事態にょうやく危機感を抱いたということであろう。

 とはいえ、行政はいまだに市場がなぜ縮小し、崩壊寸前に至ったかの真因には気づいていない。自らが証拠金制度を形骸化させ、商品取引員を商品先物取引業者という得体の知れない業態に強制転換することで市場の担い手であることを骨抜きにしてしまった。これが、今日のマーケット壊滅の引き金となったことは明らかである。行政はかつて取引員性悪説に基づいて、利益至上主義の外務員営業を諸悪の根源とみなし、勧誘規制強化によって外務員そのものの存在を事実上、否定した。再勧誘禁止、不招請勧誘禁止でそれは一応の完成をみた。それが、8月末現在の国内商品市場の外務員数2435人に如実に示されている。

取引所に信頼性を

 プロ化といい、商品先物をデリバティブ取引なるものに分類することで市場が健全化されると思ったら大間違いである。水清ければ魚棲まず―ではないが、行政のいう委託者トラブルゼロが健全な市場というのなら、そもそも商品先物取引を禁止し、市場を閉鎖すれば良いのである。それでも、自らの手でひとつの市場を潰したという〝失敗″とそのことによる責任を回避するとともに、現にある行政権限は失いたくないという救いがたい役人根性によって、問題があれば外務員営業とそれによって成立する取引員企業にすべての責任を課したのである。しかし、当業者のヘッジにせよ、個々のディーリングにせよ、それが十全に機能し、価格形成に至るためには一般投機が不可欠である。一般投機こそ商品先物市場のインフラである。いま、その一般投機が枯渇しているからこそ流動性が失われた。一般投機の復活は、取引所じたいの信頼性とその根拠となる公平公正な市場運営の確立以外には決して実現されることはあるまい。

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