時代と世界の変化に即応を(11/15号・紙面)

先物協会の役割と使命

 日本商品先物振興協会が岡地和道会長、車田直昭副会長(市場戦略統合委員会委員長を兼務)の新体制がスタートしてほぼ一カ月が経過しようとしている。岡地会長は、「日本の金融マーケット全体が活力を失う中で、先ずは国内商品市場がその機能を十全に発揮できるよう、市場を活性化させることが最優先の課題」であるとしたうえで、「市場流動性の向上、商品市場の再生」に向けた振興策に取り組んで行くとしている。これは全く正しい。車田副会長もその点では完全に共通した認識を持っており、「ひとつの方向性に(業界を)集約して、あるべき姿を追い求めて行きたい」(岡地会長)とする意欲を、是非とも具体的に実現することを望みたいところである。

次々と新事態が…

 さて、流動性拡大による市場活性化と国内商品先物市場の再生が喫緊の課題であることは論を待たないにしても、硬直化した主務行政と不招請勧誘禁止に象徴される個人(一般)投資家に対する規制強化の恒常化によって、市場機能の十全な発揮というマーケットとしての肝心の存在理由が喪失されていることが、現在の国内市場と業界の停滞と不振の最大の要因であることは明らかである。冒頭で新体制発足から一カ月足らずと述べたが、この間だけでも、円の対ドル相場が戦後最高値を更新し、ギリシャ危機に端を発する信用不安から米金融大手のMFグローバルが破たん(日本の子会社MFグローバルFXA証券は営業休止)。東京工業品取引所の金夜間取引がシステム障害で一時停止する一方、東京穀物商品取引所のコメ(米穀)先物で、戦後初の受け渡し(早受け)が成立したと思ったら、今度は東京証券取引所と大阪証券取引所が来秋にも合併などとの報道も飛び出すなど、実に様々な出来事が巻き起こっている。
 まさに時代は、世界は目まぐるしく変化し、しかもその変化はかつてないスピードとなり、ひとつひとつの出来事や現象に適切に対応することが困難になりつつある。こうした変化やそのことによるリスク(危険)を回避するための場である先物市場は、確かに世界的なレベルにおいてはかつてない発展と拡大をみせているのは周知の通りである。しかし、国内の商品先物市場は2005年の行政による勧誘規制強化以来、市場規模の縮小が続き、かつての取引員業界は商品先物取引業者に一括されることで、いまや風前の灯のごとき低迷に追い込まれている。

全体の底入れ感も

 金の国際市況高騰による貴金属全般への投機人気拡大などが底支えする格好で、今年1-10月の出来高累計が前年同期比で14.8%増加。年間総出来高が8年ぶりに前年を上回ることがほぼ確実視されている。また、日本商品清算機構(JCCH)がまとめた10月末現在の預託証拠金残高のうち、委託証拠金が1533億8000万円と、9月末の1417億円から増加に転じるなど、市場規模を示すデータの一部に改善の兆し(底打ち感)がみえてはいる。しかし、国内市場のエンジン役である東工取では、上期こそ経営目標である一日平均出来高「13万枚」を上回ったものの、10月は12万8722枚となり、今月も13万強と下期の目標である「15万枚」を下回っており、適期目標の「14万枚」が実現できるか否かは全く不透明である。
 商品先物市場の流動性の実相と受託ビジネスの原動力ともいえる総取組高に至っては、9月末以降は40万枚でほぼ横バイとなっており、まさに市場と業界は膠着状態の様相を呈している。コメが最終兵器か否かは異論もあろうが、起死回生の灰かな期待も少なくとも現状に関する限り、業界再生のキッカケとするには余りにも力不足といえよう。もちろん、東穀取、関西商品取引所ともに振興策とPRに取り組んではいるものの、TPP問題などの陰で、社会的関心は「ほぼゼロ」というのが実態である。結局、コメの認知度の強弱ではなく、コメ先物=業界の社会的認知と浸透が果たされていないことが、JAなど生産者の市場参加の有無よりもはるかに大きな課題であることをあらためてみせつける格好となっている。

代替不能の幹持を

 前述したように、今年の年間出来高が8年ぶりに前年比増加に転じたとしても、それは恐らく業界にとって何の慰めにもならないのは明らかである。それほどに旧来の専業取引員が体現していた商品先物の一般受託と、それに基づく一般投機玉の市場への導入という役割によって市場の担い手たりえた受託ビジネスは痛めつけられ、傷ついてしまっている。これを、先物協会トップも「活性化し、再生する」としている。しかし、これは並大抵の努力で実現できるとは到底考えられないほど厳しい環境にあるのが現在の業界の状況である。それでも、商品先物市場は自由経済における市場原理という基本中の基本が不変である限り、代替不能かつ不可欠のシステムであり、そのことこそが市場と業界の存在理由そのものである。その衿持を体現する先頭に立つのは当然、先物協会でなければなるまい。