改正金商法成立のカゲで(9/15号・紙面)

商品先物拡充が先決

 衆議院は6日の本会議で、改正金融商品取引法を可決、同改正法が成立した。周知のように、同改正法は商品先物や株式、金融先物などを一括して取引できる、いわゆる「総合取引所」を実現するための法的根拠となるもので、規制・監督官庁を金融庁に一本化するものとなっている。すでに来年1月には東京、大阪証券取引所が統合することによる「日本取引所グループ」の発足が決定しているが、これによって国内の商品先物市場にどのような具体的な波及効果があるかは現時点では不透明というのが現実である。衆院の財務金融委員会での審議において、松下忠洋金融担当大臣(=当時)は、規制・監督一本化に際して浮上するであろう問題点については、金融庁と農水経産の三省庁で「商品先物取引活性化協議会」を設置するとの方針を明らかにした。

落ち込み激しいが

 いずれにしても、取引所の形態がいかなるものになるにせよ、最も肝心なのは国内の商品先物市場の今後のありようであり、そのために行政がどのように関わり、市場拡大に向けていかなる政策を発動するかが焦点となることはいうまでもない。現実問題としては東京工業品取引所にせよ関西商品取引所にしても、現時点で総合取引所にいかに関わって行くかの方向性は全く明らかではない。むしろ、現行制度のなかでいかに市場の拡大、発展を模索するか、模索する可能性があるかが問われている。国内の商品先物市場で低迷、不振が続いているのは周知の通りであるが、すでに解散が内定している東京穀物商品取引所はともかく、自らの存立基盤の確立・拡充なくして総合化も何もあったものではあるまい。

 確かに今年1-8月の商品先物総出来高は1785万3905枚と前年同期比23・7%減とさらに落ち込みに拍車がかかっている。8月の一日平均出来高は8万8315枚と10万枚の大台どころか、9万枚をも割り込んでしまった。東工取でさえ7万7627枚と、一日平均としては1996年6月の6万5150枚以来の低水準に追い込まれてしまった。これでは、国内の金融市場との統合・合併はおろか、海外との市場間競争を論議するレベルにないのは明白である。このまま放置するなら、国内の商品先物はマーケットとして存続するか否かの瀬戸際にあるといわぎるを得ない。

状況は一変する

 それでも、商品先物にはいつ何時、それまでの低迷、不振がまるでウソのように爆発的に激変するという特質を持っている。いかに停滞し、いまにも消滅するのが必至とみられたような瀕死の市場や商品が文字通り、劇的に復活するといったケースは二つや三つではない。それが、たとえば行政が得意気に多用する産業インフラとしての必要性うんぬんといった議論だとか、取引業者のビジネスモデルの転換といった上から目線の押し付けを越えた現象となるのが商品先物市場と業界のありようでもあるのである。それこそが、様々な試練や困難を乗り越えて商品先物というシステムと業界が生き残ってきた最大の要因ではないだろうか。

 事実、8月までの低迷からウソのように今月に入ってからの市場環境は一変という言葉がふさわしい展開となっている。これは、金の国際市況がにわかに動意付き、ふたたび昨年のような高騰の兆しをみせたことに起因している。ニューヨーク金(期近)が8月後半から上値追いを強めてきたことを受けて、東工取の商いが急増。これをハズミにした格好で全体的な出来高も拡大傾向となり、9月以降の一日平均出来高は一気に11万枚を超えてきた。7日付現在での数値ではあるが、東工取だけでは45・7%という急増ぶりである。つまり、一変するのである。君子豹変ではないが、ある時にわかにあらゆる環境(内部、外部要因)が変化し転換するのが商品先物という世界の最大の特徴である。まさに変化を内包し、それを先取りすることで、その変化がもたらす危険(リスク)を価格変動を通じて可能な限りコントロールするのが先物市場の機能なのである。

ブローカーの本義を

 であるとしたら、その機能を社会のあらゆる層(個人、企業を問わず)が利用し、活用するための手段と方法を正しく提供するのが市場(取引所)と業界の最大の役割であり使命ということになる。役とは本来は、国家が人民に課した労役という意味であるが、より本質的には責務(任)ということであろう。そして、使命とは正に命を使うことである。つまり、我が商取業界は、社会全般に対して、商品先物市場の機能と存在理由を正しく伝える(啓蒙・PRする)義務を持ち、そのためには自らの持てる力の全てを用いる(使う) ことで初めて自らの存在意義を示すことができる存在ということができる。まさに、取引業界による公正なブローカー行為なくして市場は一日たりとも自らの機能を発揮することはできない。金という一商品を巡っていま起きていることが、業界の未来を決定的に左右するとともに、他の上場商品を含めた業界全体の命運を握っているのかもしれない。

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