経済産業省と農林水産省が公表した調査で、商品先物を取引する個人の6割が損失を抱える実態が判明した。取引の主役はネット証券などが扱うCFD(差金決済取引)に移り、投資家層も若返りが進む。市場構造の転換点が鮮明になった。
今回の調査は「令和6年度商品先物取引に関する委託者等の実態調査」。平成16年の法改正審議での附帯決議を踏まえ、今後の制度立案の基礎資料とする目的で両省が毎年実施しており、今回で19回目となる。全国の個人投資家と業者を対象にアンケート形式で行った。
調査結果によると、店頭商品デリバティブ(CFD)を取引する個人投資家のうち、実に61.7%が累積で損失を抱えていた。取引所を介する国内商品市場でも53.5%が赤字。ハイリスク・ハイリターンな商品の実態が改めて浮き彫りになった。
市場の主役交代は決定的だ。令和7年年初の取引口座数はCFDが約71万口座に達し、国内商品市場の約3.2万口座を圧倒する。取引の簡便さや少額から始められる手軽さが、伝統的な取引所取引から投資家を奪う構図が鮮明だ。
この地殻変動は投資家層にも変化を促した。国内市場の取引は50〜70代のシニア層が中心。一方、CFDは30〜50代の現役世代が牽引する。スマートフォンアプリなどで手軽に取引できる環境が、新たな投資家層を呼び込んでいる。
投資対象は「金」と「原油」に人気が集中する。世界的なインフレや地政学リスクの高まりを背景に、価格変動の大きいコモディティが短期的な収益機会を求める投機資金を引きつけているとみられる。動機は「資産運用」が6割を占めるものの、その内実には投機的な色彩が濃い。
取引の満足度や継続意向はネット利用者が際立って高い。これは自己の判断と責任で機動的に取引したいという現代の投資家像を映し出す。一方、外務員を介する取引では「サービスや情報提供が不十分」との不満も根強い。旧来型の営業モデルが顧客ニーズとの乖離(かいり)を深めている可能性を示唆する。
CFDの普及で市場の裾野は広がったが、同時に個人の損失リスクも増大している。投資家保護と市場の健全な発展をいかに両立させるか。業界は重い課題を突きつけられた格好だ。