ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)は8日、3月の金市場レポートで、金価格が月間12%下落の1オンス4,608ドルになったと発表した。2013年6月以来で最悪の月間騰落率となった。通貨別では米ドル建てで11.8%下落したほか、ユーロ(9.7%下落)、日本円(10.1%下落)、ポンド(10.0%下落)、カナダドル(9.8%下落)、スイスフラン(8.1%下落)、インドルピー(7.9%下落)、人民元(11.2%下落)、トルコリラ(10.7%下落)、豪ドル(8.8%下落)と、全主要通貨で値を下げた。一方、年初来騰落率は米ドル建てで5.5%のプラスを維持し、インドルピー建ては10.2%に達する。3月31日時点の価格は1オンスあたり3,993ユーロ、3,487ポンド、6,422カナダドル、3,692スイスフラン、20万4,967トルコリラ、6,693豪ドル。10グラムあたり14万6,126インドルピー、1グラムあたり2万3,550円、1,017人民元。史上最高値は2026年1月29日(米ドル、カナダドル、スイスフラン、インドルピー、人民元、トルコリラ、豪ドル)と同年3月2日(ユーロ、日本円、英ポンド)にそれぞれ記録されている。
月次帰属モデル(GRAM)解析によると、3月の急落はファンダメンタルズではなくデレバレッジと流動性動態に起因する。主因はモメンタム因子で、世界的な金ETFからの120億米ドル(84トン相当)の流出、COMEX(ニューヨーク商品取引所)でのネット・ロングポジション解消や価格トレンド反転が響いた。ETF地域別では北米140億米ドル流出(87トン減)、欧州1億米ドル流出(7トン減)に対し、アジアは押し目買いで19億米ドル流入(10トン増)。COMEXのマネージド・マネー純買い越しポジションも20億米ドル(19トン相当)減じたが、強気バイアスは維持している。
下落には複合的なテクニカル・市場構造的要因も絡む。まずリテール投資家がポジションを解消し、COMEX非報告ポジションは3月最初の3週間で累積18トン減少。マネージド・マネーの22トン減少と歩調を合わせた。次に、3月16日には金価格が約7カ月ぶりに50日および55日移動平均線を下抜け、商品投資顧問(CTA)の急激な売りを誘発。さらに広範なクロスアセット・デレバレッジも波及した。証拠金債務増大による株式売却でS&P500種株価指数(エネルギー除く全セクター)が下落するなか、マルチアセット投資家がVaR(バリュー・アット・リスク)削減や流動性確保へ金を売却。週次GRAMモデルでも期間中に累積12%の負の「残差」を記録した。
債券市場の動態も圧力を強めた。短期的インフレショックで米2年物名目利回りと期待インフレ率(ブレークイーブン・レート)が急騰し、金は実質利回り上昇に過剰反応した。公的セクターでは、トルコ中銀のカラハン総裁が約50トンの金をスワップ取引担保に活用したと明かしたが、これが売却の噂を呼び下押し圧力となった。イラン戦争の余波で外国中銀がエネルギー価格上昇への緩衝策として米国債を売却する動きもFed(連邦準備制度)データで確認された。中東情勢を巡っては、ドバイへのフライト・観光客減少で宝飾品等の需要が減退し、同市場の先物価格はCOMEX比でディスカウント状態となったが、国際価格への影響は限定的だった。
今後の展望について、WGCは複数の回復の兆しを指摘する。4月上旬の全地域での金ETFフローのプラス転換、米ドル上昇の頭打ち、オプション市場の6カ月物リスクリバーサルが示す中長期的好感などだ。FRB(米連邦準備理事会)のパウエル議長が言及したエネルギー価格急騰は、需要破壊を通じてコアインフレ波及を抑え、ハト派的政策転換を促す可能性がある。ただし原油が1バレル100米ドルを大きく上回り続ければ、さらなるデレバレッジや公的部門の金動員リスクが残る。短期的にはマクロ指標より、地政学リスクに伴う流動性ニーズへの敏感な反応が続く見通しだ。

